カタストロフィ

嫉妬



無事に留学の許可は得たものの、どうユーニスに切り出したものか。

(そもそも僕の教育のために雇われているのだから、留学に行ってしまったらユーニスがシェフィールド家にいる理由はなくなってしまう。本人は恋愛にも結婚にも興味はないみたいだけど、次に雇われた家にはちょうど良い身分の男がいるかもしれないし、新しい出会いがあるかもしれない)

何より怖いのは、自分と同じように身分の差を乗り越えてでもユーニスを手に入れようとする男が出現することである。

そしてそんな男が現れたら、まだ子供でしかない自分では太刀打ち出来ない。

ふと頭に浮かんだ未来予想図があまりにも不吉で気分が沈んだその時、大きく開け離れた扉の奥から軽やかな笑い声が聞こえてきた。

ユーニスの声である。

サロンで誰かと話しているようで、ダニエルは咄嗟に気配を殺して扉に近づいた。

「貴方は本当に面白い方ね」

朗らかに呼びかけるユーニスの声は震え、途中でたまらなくなったのかまた笑い始めた。

「よく言われます。それにしても、この話しでそこまで笑ってくださったのは貴女が初めてですよ。これはもう、僕の鉄板ネタにするしかないな」

「鉄板ネタって、コメディアンじゃあるまいし!変な方ね」

ユーニスと話していたのは、長兄のレイモンドだった。

二人はすっかり意気投合している様子で、言葉の端々から親しんでいるのが伝わる。

「変人でけっこう!それにお言葉を返すようだが、貴女だって相当な変わり者ですよ。僕なんかよりも数倍面白い」

「面白いかはともかく、変わり者とはよく言われますわ」

「ええ、なんというか、貴女の考え方や行動は既成概念から大きく外れている」

「ダニエル様もよくそう仰いますわ」

ダニエルの名前を口にした瞬間、ユーニスの声色はより優しく穏やかになった。

不意に自分の名前が出てきたことに動揺し、ますますサロンに入りにくくなる。

そんなつもりは無いのに盗み聞きをする状況になってしまい、ダニエルは一人うろたえた。

「あれは中々扱いの難しい生徒でしょう?」

「最初は大変でしたが、今となっては良い思い出です。聡明で思いやりに溢れる子ですよ」

二人の出会いは決して良いものではなかった。

それを良い思い出と即答してもらえたことが嬉しくて、ダニエルは胸の奥にじんわり広がっていく喜びに浸った。

しかしその喜びも長くは続かなかった。

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