カタストロフィ
お茶会
雲がいく筋か流れているだけの青空を見上げ、ジェーンが柔らかく微笑んだ。
「お天気に恵まれて良かったわ。それにしても、私のドレスのよく似合うこと。こうして見ると、誰も貴女のことを女家庭教師だなんて思わなくってよ」
「奥様に審美眼がおありだからですわ。このような素晴らしいドレスをお貸しくださって、感謝に堪えません」
頭を垂れると同時に後れ毛が風に揺れるのを感じ、どこか頼りない気持ちになる。
今日のユーニスは、いつものようにただ髪を引っ詰めているだけではない。
艶のある黒髪は緩やかに編み込み、季節の花を控えめに飾っていた。
身に纏うアフタヌーンドレスはラベンダー色の生地に金糸で刺繍を施したもの。
アクセサリーはイヤリングもネックレスすべて パールのみと、控えめだが上品な装いである。
コンパニオンらしく美しく着飾ったユーニスは、どこからどう見ても貴婦人であった。
「ふふふ、元が良いとあれこれ飾るのが楽しいわ。さて、もうそろそろ時間ね。メアリーのこと、よろしくお願いしますよ」
「おまかせください」
ユーニスが恭しくそう答えてから小一時間後、サロンには一人、また一人と人が増えていった。
お茶会が始まる頃には、近隣に住む上流階級や富裕層の貴婦人の半分ほどが集まっており、その眺めは壮観であった。
メアリーとユーニスがいるテーブルは、主催者であるジェーンがいるテーブルからはそう遠くはないが近くもないところにある。
挨拶を済ませ、事前にリサーチした話題を各々に振っているメアリーは、小さいながらも立派に貴婦人としての務めを果たしていた。
言葉に詰まったり話しが続かず困っている時は助けに入るが、それ以外の場面では出しゃばることなく、ユーニスは常にメアリーを引き立てた。
そんな姿勢が好感を得たのか、紅茶のおかわりをする頃には、年頃の令嬢たちはメアリーに、妙齢の貴婦人はユーニスに話しかけるようになっていた。
「ミス・フレッチャー、貴女はこちらのご出身ではないわね。フレッチャー姓の名家はこの辺りにはないもの」
「どちらからいらしたの?」
「お年は?メアリー様とは少し年齢差があるようだけど」
今回ユーニスが相手をする貴婦人たちは少々姦しく、質問が多く、会話の流れが早かった。
自分のペースを崩さないように気を引き締め、ユーニスは上品に微笑んだ。