カタストロフィ
コンパニオンとしてこの場にいるが本職はメアリー付きの女家庭教師であること、イングランドの漁村生まれで、身分こそ男爵令嬢であったが庶民に近い暮らしをしていたことなどを、ユーニスは包み隠さずに語った。
「20歳の時にこのお屋敷に参りました。今年で27歳になります。アップルトン夫人のご推察通り、メアリー様とは一回り歳が離れておりますの」
話しがひと段落着いたその時、どこからともなくほうっと長いため息が流れた。
「なんて事……若い頃からたくさんご苦労なさったのね」
「ご立派だわ。これだけの美貌があれば、男性に頼って生きていくことだって出来たでしょうに。後ろ盾のない女が身を売ることなく生計を立てるのって、本当に難しいのよ」
「あのシェフィールド伯爵夫人が気にいるだけあるわね。ところでミス・フレッチャー、あなた結婚願望はおあり?もし良かったら、私の息子と一度会ってみない?」
「あら、それなら私の息子たちにも会わせてみたいわ。ドリー、あなたのところはまだ若いんだからここは譲ってちょうだい」
「もう、ドリーもオリヴィアも、いきなりそんな話しをするなんてはしたないわ。ごめんなさいね、ミス・フレッチャー」
このお茶会が始まってからの数十分で、ユーニスは同席した貴婦人たちの性格をしっかりと覚えた。
控え目で大人しいが気配りを忘れないメルヴィル子爵夫人、フランス帰りで洗練されていて気が強いマダム・カロン、噂好きでおしゃべりだが気立が良いアップルトン夫人。
物静かなメルヴィル子爵夫人は癖の強い友人2人に振り回されていそうだが、その実しっかり手綱を握っている。
「メルヴィル子爵夫人、どうかお気になさらず。マダム・カロン、アップルトン夫人、気にかけてくださりありがとうございます。大変有難いお申し出ですが、この身は教職に捧げると決めておりますので、どうかお気遣いなく」
柔らかな笑みを浮かべ結婚の意思がないことを仄めかせば、二人は渋々といったふうに頷いた。
「もったいないわ。でもそれだけの熱意があればこそ、シェフィールド伯爵も長年貴女を重用しているのでしょうね」
「オリヴィアの言う通りだわ。あんなに問題児扱いされていたダニエル様だって、すっかり立派な紳士になられて……」
「ちょっとドリー、表情が崩れているわよ」
言葉こそダニエルの成長を褒めているようだが、アップルトン夫人の瞳は妙に輝いていた。
それが一体どういう感情なのかわからず、ユーニスは首を傾げた。