ゲームスタート!
しかし、現実はそう甘くなかった。

なんとか必死に食らいつくも、一度取られたリードを返してもらうことは出来ず…。

なんと、先輩のストレート勝ち。

「くっそお………!」

俺の、1ヶ月の努力が水の泡になって蒸発していった…。空しい。

床にへたり込んで肩で息をする俺とは対照的に、先輩は涼しい顔で仁王立ちしている。

「んー、どうしよっかなあ」

先輩は口元を緩めて、楽しげに考え込む。

予定では、ここで俺がカッコつけて、これからも会うための口実を取り付けるはずだった。

俺ってほんとにバカだな。俺と先輩とじゃ、技術の上手い下手に天と地ほどの差があるなんて分かりきってたのに、こんな無謀な勝負を挑んで…。

せめて“モップ早がけ対決!”とかにしとけばよかった!今更後悔しても遅いんだけど。

敗者は勝者に従うしかできないのだから。

「先輩、お願いごとは…?」
「決まってるよ〜」

そう言って、先輩はしゃがんで俺と目線を合わせる。そのままじっと見つめ合ったものだから、先輩の澄んだ瞳の中に吸い込まれそうになる。

たっぷりと間をおいて、先輩は形のいい唇を動かす。

「私は夏輝に以下のことをお願いします」
「はい」

高杉先輩は満足気に笑って、珍しく声を弾ませる。

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