ゲームスタート!
「今後夏輝が卒業するまで、私が高校の練習に来ることを許すことっ」
俺はしばしフリーズする。
甘い色を帯びた声に乗せられた先輩の言葉が徐々に頭に流れ込んでくる。
えっ………はあ?
「今、何て…」
「だから、私が大学生になってもここに来る許可を出してねって」
先輩は、なんてことないように繰り返す。
つまり、それって………。
俺が考えてたこととおんなじ!
「先輩、エスパーかなにかっすか⁉︎」
「なーに言ってんの」
先輩は興奮する俺の頭頂部に軽いチョップを一発入れる。
「夏輝はね、せっかく体格に恵まれてるのに無駄な動きが多すぎ。これからはビシバシしごいてあげるから、覚悟しといてよね?」
「は、はいっっっ!!!」
高杉先輩に小突かれたぁ!高杉先輩が俺をのために来るって言ったぁ!ヤバい、感動しすぎてコメントが自意識過剰マンになってる。
うおおおおおおっ!とはしゃぐ俺の隣で、先輩がボソリと何かを呟く。
「…ホントは、ただ夏輝に会いたいだけなんだけどね」
「?今、なんか言いました?」
「ん?なんにも。気のせいじゃない?」
「そっすか」
テンションマックスの俺には、そんな何気ない違和感なんてどうでもよかった。
そっかー!やったー!俺、これからも高杉先輩と一緒に過ごせるんだ!
目に映っている全てのものに感謝したい!
「マジでありがとうございますっ!」
「夏輝ー、心の声ダダ漏れー」
先輩は俺をからかうと、よいしょっ!と勢いをつけて立ち上がり体育館の出入り口へ向かう。
脱いだシューズを片手に、外へ出ていこうとする先輩は何か思い出したかのように俺を振り返る。
それから女神の微笑みを浮かべて、柔らかい響きを持つ声で言い残す。
「明日からもよろしくね」
その美しさと言ったらもう………世界中のどんな素晴らしい褒め言葉を集めたとしても、形容し難いほどのもので。
俺の心には今日も軽やかにシュートが決められた。
スリーポイント、入りましたぁ…。
俺は無人の体育館で1人、先輩の可憐さを思い出してニヨニヨと頬を緩ませる。
高杉先輩、さすがっす。
卒業式。それは多くの人にとって、学校生活の終着点。
でも、俺はここでは終わらない。終わらなくていい。
それどころか、今の俺にとっては揺るぎないスタート地点。
高杉先輩に俺を認めてもらい、俺がかつてされたように、先輩のハートにシュートを決めるというゲームの。
理想はダンクシュートや、スリーポイントシュートで格好良く!
ハッと息を呑むような、鮮やかなプレーで絶対に先輩を夢中にさせる!
よそ見なんてさせやしない。
開幕のホイッスルは、もう鳴らされた。