ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
その夜、バート侯爵令嬢達はそのまま部屋から出ては来なかった。

「今夜はもう遅いから……就寝なされたのでしょう」
ジェラルドが言った。

「そう……」
エスターはどうしてこうなったのかと考えていた。
( バート侯爵は悪気は無かったとして、何故娘を置いていくんだよ……僕……)

 少しだけ考えていたが、不安そうに立っているシャルに気付き、優しく微笑み声をかける。

「ま、仕方ないね。じゃあシャル、僕とお風呂に入って寝ようか」

 シャルはキョトンとして、それからすぐに真っ赤になった。

「だ、ダメです。男の人とは入ってはいけないとお父さまが言ってました」
「僕はいいんだよ? 君の夫なんだから」
 おいで、とエスターが手を差し伸べるとシャルはドロシーの後ろに隠れてしまった。

「シャーロット……」

「エスター様、お風呂に入るなんてダメに決まっています。今のシャーロット様は何も覚えていらっしゃらないのですよ? それに子供でも女性なのです。 本日は私が一緒に入浴して寝ますから、ご心配なさらないで下さい」
そうドロシーはエスターに告げると、シャルを連れて行ってしまった。


「シャーロット……」
( ああ、今日は一度も抱きしめていない……)
エスターは仕方なく部屋へと寂しく戻った。






「ねぇジェラルド、おかしいと思わない?」

「何が?」
ジェラルドは自身の部屋の机に向かいながら、ドロシーに返事をした。

「バート侯爵令嬢よ、直ぐに来られたにしては荷物が多くない? あんなに大量の荷物、直ぐに用意できる物かしら……」
「あの侍女が優秀なんじゃないの?」
「そうかしら……」

 いつもは二人で眠るベッドに、今日はシャルも一緒に眠る。いや、ジェラルドはソファーで眠るのだが。さっき入浴を済ませ布団に入ったシャルは、ドロシーの横でスヤスヤと寝息を立てていた。

そんなあどけないシャルを見てドロシーは顔を綻ばせる。
「かわいい……私達に女の子がいたらこんな感じかしら……」

 ドロシーは起こさない様に彼女の頭を撫でる。
柔らかな茶色の髪、長い睫毛が影を落とすピンク色の頬はふっくらとして、思わず指で押してしまった。

「……女の子欲しいの?」
 机から目を離し、その様子を見ていたジェラルドは欲のある目をドロシーに向けた。

「ちっ違うわよ、子供はもう十分、男の子が四人もいるんだし、やっと手が離れたのに……これ以上は」
「私はもっといても構わないけどね、君が欲しいというのならいくらでも協力するよ」

 クスリと笑い、ジェラルドはまた机に目を向けた。

「……バカ」







 その頃、エスターは広いベッドの上をごろごろと転がっていた。

「何で……なんでだよ」

 昨夜も甘い夜を過ごした……が、彼女を疲れさせないようにある程度で我慢した。

くそっ、バート侯爵……いや、彼が悪い訳ではない。
それに嘘を吐いている顔では無かった。


 しかし、シャーロット嬢が家に来るとは思わなかった。
確かあの人は、マリアナ王女の後からいつも僕を見ていたんだ。

……今日はニコニコしていたな。




「……眠れない」
( シャーロット……君を抱きしめたい…… )

エスターの長い夜はまだ明けない。
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