ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五日目の昼、ちょうど廊下を曲がろうとしていたドロシーは偶然それを見た。
それは、シャーロット令嬢とシャルが、昼食をとりに向かう為に客間から廊下に出てきた時だった。
「お待ち下さい、お母さま」
そう、シャルがシャーロット令嬢に向かって声を掛けた。その瞬間、令嬢はシャルの頬をパチリと叩く。
「部屋を出てからは、言ってはいけないと言ったでしょう」
シャルはハッとして叩かれた頬を手で押さえながら「ごめんなさい」と謝っている。
( お母さま? 部屋を出てからは言ってはいけない……いつも部屋の中ではそう呼ばせていると言う事? )
やはりおかしい、そう思ったドロシーは先程見た事を、ジェラルドへ告げた。
「分かった、エスター様に伝えるから」
夕方帰ってきたエスター様は、ジェラルドから報告を受けたが、何か考えがあるのかバート侯爵令嬢には特に何も言わなかった。
その日の入浴時に、ドロシーは気になっていた昼間の事をシャルに尋ねた。
「なぜ『おかあさま』と呼んでいたの?」
シャルは困ったような顔をして首を横に振るだけで、答えてはくれなかった。
二人で入浴を済ませ寝室へと戻ると、部屋の前にエスター様が立っていた。
「ドロシー、今日は僕がシャルと寝る。大丈夫子供には何もしない。僕は獣……じゃないよ」
少し言葉に間があったのが気にかかるが、真剣な顔をしたエスター様に、ドロシーはシャルを任せることにした。
*
「シャル、おいで。今日は僕と一緒に寝よう」
優しく声をかけ手を差し出すと、シャルは僕へと腕を伸ばしてくれた。小さな彼女を大切に抱き抱え、部屋へと連れて行く。
( 軽いな、子供ってこんなに小さく軽いのか……)
ベッドへ寝かせて添い寝をする、少し頬を染めて僕を見上げる彼女の顔を見つめた。
( ジェラルドに聞いた通りだ……叩かれた跡がある…… )
そっと頬に手を添えると、シャルはピクリと体を動かした。
「叩かれたって聞いたんだ、痛くはない?」
「……いたくはありません」
「気分はどう?」
「……ちょっと、きんちょうしています」
恥ずかしそうな顔で見上げてくる、その表情が可愛らしくてクスッと笑ってしまった。
「どうして緊張するの?」
「……だって、エスターさまカッコいいから……」
「……本当? シャーロットに言われたのは初めてだな……すごく嬉しい」
「お母さまも……よく言ってます。エスターさまがカッコ良くてステキだって」
「お母様?」
シャルはハッとした後で目を伏せてしまった。
そんな彼女の小さな手を優しく包み込むように握ると、緊張からか少し冷たくなっていた。
「もしかして、バート侯爵令嬢のことかな?」
確かめるように聞くと、シャルは顔を上げた。
怯えたような緑色の瞳で僕を見る。
そんな彼女に向けて、出来るだけ柔和な微笑みを浮かべた。
するとシャルは、あのね……と小さな声で話始めた。
「シャーロットさまは、シャルのお母さまになるのだと言われたの。エスターさまは……お父さまなんだって……」
「えっ、いつから?」
「いつも……教えられます……でも、エスター……さまは……」
「シャーロット、僕に敬称をつけなくてもいいんだよ、君は僕の妻なんだから」
「でも……」
そう言葉を詰まらせるシャルの美しい緑色の瞳は、涙で潤んでいた。
今、エスターの目の前にいるのは六歳の少女であるはずなのに、その表情は十七歳のシャーロットそのものだ。
「シャーロット……」
思わず顔を寄せそうになった。
何を考えているんだ、と目をギュッと瞑り煩悩を振り払う。
( 僕は『少女』が好きな訳じゃない……こんな感情になるのは『#花__シャーロット__#』だからだろう、握る手からも熱を感じる…… だから……)
すると、チュッと手にシャルがキスをした。
「シャル?」
「エスター具合悪い?……シャルが具合が悪い時には、お母さまがよく頬にキスしてくれたの。元気になるおまじないだって、そうしたらすぐに元気になったの、だから……」
「ありがとう、嬉しいよ。お礼にギュッてしてもいい?」
「うん」
はにかみながら手を伸ばすシャルを、優しく抱きしめる。
( 小さなシャーロット……かわいい……)
暫くそうしていると、シャルの寝息が聞こえてきた。エスターもそのまま目を閉じてしばらく眠る事にした。
それは、シャーロット令嬢とシャルが、昼食をとりに向かう為に客間から廊下に出てきた時だった。
「お待ち下さい、お母さま」
そう、シャルがシャーロット令嬢に向かって声を掛けた。その瞬間、令嬢はシャルの頬をパチリと叩く。
「部屋を出てからは、言ってはいけないと言ったでしょう」
シャルはハッとして叩かれた頬を手で押さえながら「ごめんなさい」と謝っている。
( お母さま? 部屋を出てからは言ってはいけない……いつも部屋の中ではそう呼ばせていると言う事? )
やはりおかしい、そう思ったドロシーは先程見た事を、ジェラルドへ告げた。
「分かった、エスター様に伝えるから」
夕方帰ってきたエスター様は、ジェラルドから報告を受けたが、何か考えがあるのかバート侯爵令嬢には特に何も言わなかった。
その日の入浴時に、ドロシーは気になっていた昼間の事をシャルに尋ねた。
「なぜ『おかあさま』と呼んでいたの?」
シャルは困ったような顔をして首を横に振るだけで、答えてはくれなかった。
二人で入浴を済ませ寝室へと戻ると、部屋の前にエスター様が立っていた。
「ドロシー、今日は僕がシャルと寝る。大丈夫子供には何もしない。僕は獣……じゃないよ」
少し言葉に間があったのが気にかかるが、真剣な顔をしたエスター様に、ドロシーはシャルを任せることにした。
*
「シャル、おいで。今日は僕と一緒に寝よう」
優しく声をかけ手を差し出すと、シャルは僕へと腕を伸ばしてくれた。小さな彼女を大切に抱き抱え、部屋へと連れて行く。
( 軽いな、子供ってこんなに小さく軽いのか……)
ベッドへ寝かせて添い寝をする、少し頬を染めて僕を見上げる彼女の顔を見つめた。
( ジェラルドに聞いた通りだ……叩かれた跡がある…… )
そっと頬に手を添えると、シャルはピクリと体を動かした。
「叩かれたって聞いたんだ、痛くはない?」
「……いたくはありません」
「気分はどう?」
「……ちょっと、きんちょうしています」
恥ずかしそうな顔で見上げてくる、その表情が可愛らしくてクスッと笑ってしまった。
「どうして緊張するの?」
「……だって、エスターさまカッコいいから……」
「……本当? シャーロットに言われたのは初めてだな……すごく嬉しい」
「お母さまも……よく言ってます。エスターさまがカッコ良くてステキだって」
「お母様?」
シャルはハッとした後で目を伏せてしまった。
そんな彼女の小さな手を優しく包み込むように握ると、緊張からか少し冷たくなっていた。
「もしかして、バート侯爵令嬢のことかな?」
確かめるように聞くと、シャルは顔を上げた。
怯えたような緑色の瞳で僕を見る。
そんな彼女に向けて、出来るだけ柔和な微笑みを浮かべた。
するとシャルは、あのね……と小さな声で話始めた。
「シャーロットさまは、シャルのお母さまになるのだと言われたの。エスターさまは……お父さまなんだって……」
「えっ、いつから?」
「いつも……教えられます……でも、エスター……さまは……」
「シャーロット、僕に敬称をつけなくてもいいんだよ、君は僕の妻なんだから」
「でも……」
そう言葉を詰まらせるシャルの美しい緑色の瞳は、涙で潤んでいた。
今、エスターの目の前にいるのは六歳の少女であるはずなのに、その表情は十七歳のシャーロットそのものだ。
「シャーロット……」
思わず顔を寄せそうになった。
何を考えているんだ、と目をギュッと瞑り煩悩を振り払う。
( 僕は『少女』が好きな訳じゃない……こんな感情になるのは『#花__シャーロット__#』だからだろう、握る手からも熱を感じる…… だから……)
すると、チュッと手にシャルがキスをした。
「シャル?」
「エスター具合悪い?……シャルが具合が悪い時には、お母さまがよく頬にキスしてくれたの。元気になるおまじないだって、そうしたらすぐに元気になったの、だから……」
「ありがとう、嬉しいよ。お礼にギュッてしてもいい?」
「うん」
はにかみながら手を伸ばすシャルを、優しく抱きしめる。
( 小さなシャーロット……かわいい……)
暫くそうしていると、シャルの寝息が聞こえてきた。エスターもそのまま目を閉じてしばらく眠る事にした。