ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
次の日も、いつものようにエスターは仕事へと向かった。
朝から変わらず大きな声で送り出すシャーロット令嬢。
そしてまた、エスターの姿が見えなくなるとシャルを客間へと連れて行く。
*
シャーロット令嬢とシャル、侍女が客間に入り扉の鍵を掛ける。
侍女は、小さな茶色のロウソクに火を灯した。
一瞬煙が上がり、炎が揺れる。
フワリと漂うのは甘い香り。
シャルはいつものように、ベッドの中央へ寝かされる。
頭の方に座ったシャーロット令嬢が顔を覗き込む様にすると、彼女の胸元からもロウソクと同じ甘い香りがしてくる。
シャルは次第に意識が朦朧としてきた。
最初この部屋へと連れて来られた日からこうだった。甘い香りの漂う中、フワフワとする頭に聞かされるシャーロット令嬢の声。
それは彼女の心
マリアナ王女様の手前、ずっと言えずに押し殺していた想い
エスター様が好き
ずっと好きだった
彼のこんな所が好きなの、こんな事があったのよと楽しそうに彼女は話す。
はじめは楽しく話をする彼女だが、それは暫くすると怖いほどの気持ちへと変わる
好き
エスター様が好き
私の方が好きなの
あなたよりずっと、私の方が彼を知っている
だから私にちょうだい
お願いよ……
それはまるで呪いのように何度も繰り返された。
しかし、最後に必ず彼女はこう言った。
それまでとは全く違う表情をして、ふと何かに気付いたように……
「ごめんなさい……」
しかしまた、すぐにいつもの表情へと変わってしまう
*
「シャル、あなた昨夜はエスターと同じ部屋で寝たそうね」
シャーロット令嬢に鋭い目で見据えられ、ビクッと体が震えた。
「……はい」
「どうして? エスターはお父様なのよ? お父様とシャルは寝てはいけないわ。あなたはもう六歳なんでしょう⁈ 」
「……お父さまじゃないと言われました」
「誰に?」
「エスターに」
「エスター⁈ 違うでしょう、エスター様と言いなさいっ!」
声を荒げ手を振り上げたシャーロット令嬢の形相は恐ろしく、シャルは身を縮ませ頭を抱えた。
こわい……イヤ……
「お嬢様それくらいで、早めに暗示を掛けませんと、香りが漏れてバレてしまいます」
やんわりと侍女がシャーロット令嬢を制止した。
「ああ、そうね」
気を取り直した令嬢は、シャルの頭に手を乗せるとぶつぶつと何やら唱え始める。
シャーロット令嬢の冷たい手の感触と、発せられる言葉の気持ち悪さに、イヤだと顔を背けると侍女が何かを口に垂らした。
口の中に入った物を飲み込むと途端に睡魔に襲われる。
眠って動かなくなったシャルを確認した侍女は、シャーロット令嬢にほくそ笑む。
「これで完了です。夕食の後にでも話を切り出しましょう、バート侯爵様が『返し草』を持ってきてからでは遅いですから」
「この子が戻る前に、エスターと結婚の約束を交わせばいいのね?」
「そうです一言結婚すると言ってもらえば良いのです」
「……本当に大丈夫かしら」
「大丈夫です、お嬢様の魅力には敵うものなどおりません」
「そうね、エスターも最近私ばかり見ているし……」
シャーロット令嬢はドレスの胸元に手を添える。
「ええ、お嬢様の魅力にはどんな男性も惹きつけられてしまいます」
二人は顔を見合わせてクスクスと笑う。
侍女がロウソクの火を消すと、暫くしてシャルが目覚めた。
目覚めたシャルの前には、微笑みを浮かべるシャーロット令嬢がいた。
シャーロット令嬢は、乱れたシャルの髪を櫛で梳きながら優しく話す。
「シャル、今夜お母さまが話を始めたらちゃんと教えたことをお話するのよ? 出来るかしら?」
ジッと令嬢はシャルを見つめる。
「……はい」
光のない目をしたシャルは、小さく返事をした。
朝から変わらず大きな声で送り出すシャーロット令嬢。
そしてまた、エスターの姿が見えなくなるとシャルを客間へと連れて行く。
*
シャーロット令嬢とシャル、侍女が客間に入り扉の鍵を掛ける。
侍女は、小さな茶色のロウソクに火を灯した。
一瞬煙が上がり、炎が揺れる。
フワリと漂うのは甘い香り。
シャルはいつものように、ベッドの中央へ寝かされる。
頭の方に座ったシャーロット令嬢が顔を覗き込む様にすると、彼女の胸元からもロウソクと同じ甘い香りがしてくる。
シャルは次第に意識が朦朧としてきた。
最初この部屋へと連れて来られた日からこうだった。甘い香りの漂う中、フワフワとする頭に聞かされるシャーロット令嬢の声。
それは彼女の心
マリアナ王女様の手前、ずっと言えずに押し殺していた想い
エスター様が好き
ずっと好きだった
彼のこんな所が好きなの、こんな事があったのよと楽しそうに彼女は話す。
はじめは楽しく話をする彼女だが、それは暫くすると怖いほどの気持ちへと変わる
好き
エスター様が好き
私の方が好きなの
あなたよりずっと、私の方が彼を知っている
だから私にちょうだい
お願いよ……
それはまるで呪いのように何度も繰り返された。
しかし、最後に必ず彼女はこう言った。
それまでとは全く違う表情をして、ふと何かに気付いたように……
「ごめんなさい……」
しかしまた、すぐにいつもの表情へと変わってしまう
*
「シャル、あなた昨夜はエスターと同じ部屋で寝たそうね」
シャーロット令嬢に鋭い目で見据えられ、ビクッと体が震えた。
「……はい」
「どうして? エスターはお父様なのよ? お父様とシャルは寝てはいけないわ。あなたはもう六歳なんでしょう⁈ 」
「……お父さまじゃないと言われました」
「誰に?」
「エスターに」
「エスター⁈ 違うでしょう、エスター様と言いなさいっ!」
声を荒げ手を振り上げたシャーロット令嬢の形相は恐ろしく、シャルは身を縮ませ頭を抱えた。
こわい……イヤ……
「お嬢様それくらいで、早めに暗示を掛けませんと、香りが漏れてバレてしまいます」
やんわりと侍女がシャーロット令嬢を制止した。
「ああ、そうね」
気を取り直した令嬢は、シャルの頭に手を乗せるとぶつぶつと何やら唱え始める。
シャーロット令嬢の冷たい手の感触と、発せられる言葉の気持ち悪さに、イヤだと顔を背けると侍女が何かを口に垂らした。
口の中に入った物を飲み込むと途端に睡魔に襲われる。
眠って動かなくなったシャルを確認した侍女は、シャーロット令嬢にほくそ笑む。
「これで完了です。夕食の後にでも話を切り出しましょう、バート侯爵様が『返し草』を持ってきてからでは遅いですから」
「この子が戻る前に、エスターと結婚の約束を交わせばいいのね?」
「そうです一言結婚すると言ってもらえば良いのです」
「……本当に大丈夫かしら」
「大丈夫です、お嬢様の魅力には敵うものなどおりません」
「そうね、エスターも最近私ばかり見ているし……」
シャーロット令嬢はドレスの胸元に手を添える。
「ええ、お嬢様の魅力にはどんな男性も惹きつけられてしまいます」
二人は顔を見合わせてクスクスと笑う。
侍女がロウソクの火を消すと、暫くしてシャルが目覚めた。
目覚めたシャルの前には、微笑みを浮かべるシャーロット令嬢がいた。
シャーロット令嬢は、乱れたシャルの髪を櫛で梳きながら優しく話す。
「シャル、今夜お母さまが話を始めたらちゃんと教えたことをお話するのよ? 出来るかしら?」
ジッと令嬢はシャルを見つめる。
「……はい」
光のない目をしたシャルは、小さく返事をした。