ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
その日は夕食を終えると、いつもなら直ぐに部屋へと戻るバート侯爵令嬢が珍しくエスターに声をかけてきた。

「エスター様、実は侯爵家から持ってきた高級な茶葉がありますの。もうそろそろ『返し草』も届く頃ですし、私達も帰らねばならないでしょう? どうでしょう、使用人の方達もご一緒に、飲んで頂けませんか?」

「そうですか、それならば是非」とエスターは了承し、ジェラルド達を居間へと呼んだ。

居間に皆が集まると、侍女がお茶を入れてくれた。
「このお茶は入れ方があるのです」

 持って来ていたらしいガラス製のポットに茶葉を入れ、熱い湯を一気に注ぐ。その上からカバーを被せ、数分待った後カバーを外せばポットの中に大輪の花が開いていた。
小さいカップをならべて手際良く注ぐと、侍女は皆の前に静かに置いていく。

「どうぞ、温かいうちにお召し上がり下さい」

 お茶は、ほんのりと甘い香りがした。
エスターはカップを手に取り一口飲む、甘みのある美味しいお茶だった。
 シャーロット令嬢は、両手でカップを包み込むように持つと、寂しそうに告げた。

「もうすぐ、皆様とお別れですわ……寂しいですね、シャル様」

それまで俯いて座っていたシャルが急に顔を上げた。

「シャーロットさまが、この家に住むことはできないの?」

 まるで感情のない声でシャルは言う。

「……シャル?」
 声をかけたエスターの事は、見えていないかのようにシャルは表情なく話を続けた。

「シャーロット様がエスターさまと『けっこん』すれば一緒に住めますか?」
皆は一斉にシャルを見た。

 その言葉を聞いたシャーロット令嬢は頬を染め嬉しそうな顔をする。

「まぁ、そんな事を仰って……私がエスター様と結婚したらシャル様が嫌でしょう?」

「ううん、私はこのままシャーロットさまに、この屋敷にいてほしいの。そして……シャルはこのままの姿でいるの。シャーロットさまに、お母さまになってもらうの、それで……エスターさまに……あ……」

 言葉を発しながら、シャルはエスターの方を見た。
口を開け、何かを言おうとしているシャルは、小さく首を横に振る。

「エスター……」

苦しそうに告げたシャルの目には、涙が浮かんでいた。
< 110 / 145 >

この作品をシェア

pagetop