ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
 魔獣を召喚する訓練は、城の一角にある訓練所で行われる。そこには特殊な結界が張ってあり、獰猛な魔獣を呼び出せるようになっていた。

 召喚訓練の時には、必ず騎士を側に置かなければならなかった。
コレは俺にとっては召喚訓練、騎士にとっては魔獣討伐の演習になる。それに魔獣駆除だな。
 始めたばかりの頃は小さな魔獣しか呼び出せず、騎士も一人か二人だったが、今はかなり大きな魔獣を呼び出せる為、側に置く騎士も四、五人は必要だ。

「あ、ジーク様! 召喚訓練ですか?」
 訓練の申請書を出した俺に、事務官の女性が首を傾げ、見上げながら聞いてくる。彼女にとってはかわいいポーズらしい。
……まぁ、悪くはない。

「ジーク様、今回は何人程お呼びしましょうか? また、ガイア公爵閣下でも大丈夫ですよ」

 先月、訓練の時にガイア公爵に来てもらった。
かなり獰猛な魔獣を呼び出したのに、あの人はあっと言う間に倒してしまう。それも一人で。
さすがというか……

「どうされますか? それとも獣人騎士を五人程呼びますか?」
事務官の女性は、俺のことを気に入っているらしく、いつもグイグイ寄って来て話す所がちょっと苦手。
( あんまりそっちから来られると引く……)

「……レイナルド公爵閣下とか呼べたりしますか?」

 ガイア公爵が来てくれるんだ、同じ竜獣人のレイナルド公爵でもいいだろう、そう思って聞いてみた。

「あ、だったらオスカー・レイナルドを呼びましょう。彼は今年、騎士になったばかりですが、あの人なら一人でいいですしね」
「えっ、オスカー……騎士になったのか」
「そうなんですよぉ。入って間もないけどね、やっぱり竜獣人だから強いんです。ただレイナルド公爵閣下の意向で一番下っ端からなんですよ、だからすぐ呼べます」



**



 当日現れたオスカー・レイナルドは、美しい少年だった。
凛とした顔、スラリとした体躯、清艶な青い目が意志の強さを表している……

こいつが……エリーゼ王女の好きなヤツか……



「本日はよろしくお願いします」
俺が挨拶をすると、オスカーは少し緊張した様に返事をした。

「は、はい。こちらこそ宜しくお願いします」

( ふうん、竜獣人でも緊張するんだ……)


「では、早速始める」

 俺は呪文を唱えながら手のひらを空へと向ける。
何も無かった空間に光の魔法陣が浮き上がる。
それを初めて見たオスカーは目を輝かせていた。

魔法陣の大きさで魔獣の大きさも変わる。とりあえず、中位の物を出した。
コレから出てくる魔獣はさほど強くはないはずだ。……それでも一般の騎士が三人がかりだろうが。
 そう思っていたが、現れた魔獣を、剣を抜いたオスカーがあっという間に消し去った。
彼の銀色の長い髪がサラッと靡く。

「……大丈夫か?」

 少し驚いてしまった。騎士に入って間もないと言うのに……やはり竜獣人は違うのか。

オスカーは俺に向けて爽やかに笑う。
「はい、全然大丈夫です!」

軽い感じで答えられてしまい、それに何故だかムッとした俺は手を上げ、またすぐに呪文を唱えた。
「……あっ」( ちょっと大きくなり過ぎた)
グウンッ、とさっきの倍程の魔法陣が広がり、結界がビキビキと音を立てる。

ズウウウンッ!とかなり獰猛な魔獣が出て来てしまった。

「マジか……」
 ボソッと呟いたオスカーの目には愉悦が見えた。
タタタッと走り地面を蹴ると、魔獣目掛けて跳び上がる。そのまま一撃を与えるが、魔獣は倒れずオスカーへ襲い掛かる。オスカーは攻撃をサラリと交わし、また剣を振った。三回ほど繰り返された攻防はもちろんオスカーが勝った。

「……ごめん、ちょっと間違えた」
「いいえ、問題ありません」

息も切らさず、爽やかに笑うオスカーに、俺は敵わないと思った。

 どんなに俺が努力しても、オスカーにはなれない。
生まれながらに彼が持つ美しさも強さも、俺にはない物だ。

 訓練を終え、二人で訓練所から城へと続く廊下に出ると、そこに青色のドレスを着たエリーゼ王女がいた。
満面の笑みを浮かべこちらを見ている。

「オスカー様!」

明るい声で彼女は好きな人の名前を呼ぶ。

「エリーゼ王女様」
王女に気付いたオスカーは騎士の礼をとった。
俺もエリーゼ王女に礼をする。

エリーゼ王女はオスカーを見た後、少しだけ俺に目を向けた。


「あら、ジークの演習でしたの? 上手く出来たのかしら?」
「はい……」

 返事をしたが、エリーゼ王女の視線は既にオスカーに向いていた。

( やっぱりね、俺にじゃないとわかっていたけど…… )
上手く出来たかと聞いたのは、オスカーに対してだ。

その日、エリーゼ王女は、そのままオスカーを連れて行った。


……俺は
いつになったら
君の目に、一番最初に映る事ができるだろう


 去っていく二人の背中を見送りながらそんな事を考えていると、俺の背後から鈴の様な声がした。

「ふうん……ジークって、エリーゼお姉様が好きなのねぇ」
「マリアナ王女様……」

ニンマリと笑うマリアナ王女がそこに居た。

「私が協力してあげるわ」
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