ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
「あなた、凄いんですってね……お父様が誉めていらしたわ」
「……ありがとうございます」
「……何か欲しい物はあるのかしら」
「欲しい物?」
( 何故急に欲しい物を聞いてくるんだ?)
「お父様が、あなたに褒美を与えるそうよ。それで何か欲しい物はないか、何故か私に聞いてくる様に言われたのよ」
(……ああ、そうか)
エリーゼ王女は、優雅な仕草でカップを口に運ぶ。
「何でもいいのですか?」
「いいわよ」
「じゃ……じゃあ、エリーゼ王女様の事を今から『エリーゼ』と呼ぶ様にする、というのでもいいでしょうか?」
ぐっ、エリーゼ王女は紅茶を喉に詰まらせた。
ケホケホと咳込み胸を叩く。
「そ、それが褒美なの⁈ 」
彼女は目を見開き、俺を見た。
「はい、俺にとっては……この上なく」
俺は微笑み、彼女を見る。エリーゼ王女はすぐに目を逸らし、なんだか恥ずかしそうに言った。
「エリーゼと呼ぶのはダメよ……他の呼び方なら……構わなくてよ」
「じゃあ『エリー』?」
「それもダメ」
「リーゼ?」
「それもダメよ、私だとすぐに分かってしまうわ」
「エリーゼ王女様を呼ぶのに分かるとダメって……」
( どう言う事だよ?)
「じゃあ……『リー』でもいいですか?」
「……いいわ、それで」
「敬語を止めても?」
「どうしてよっ」
「俺、稀代の魔獣術師だから、それに歳上だし」
「訳が分からないわ…………勝手にしなさい」
それから俺は、エリーゼ王女様を『リー』と呼ぶ様になった。
『リー』と呼ぶたびに、ツンと拗ねた様な顔をする彼女はめっちゃ可愛い。
**
今から一年程前だ。
偶然なのか、廊下ですれ違ったリーが足を止め俺に聞いて来た。
「ねぇジーク、あなた城の中に魔獣を呼び出せる?」
「……何するつもり?」
「今度のお茶会で、オスカー様とエスター様にショーをしてもらおうかと思っているの」
「ショー?」
オスカーなら瞬殺だし、問題はないか……そんな軽い気持ちで引き受けた。
( リーの頼みなら断ったりしない )
「出来るけど……必ず剣を持たせて置くんだよ、約束だからね」
「……分かったわ」
こうして王妃主催のお茶会で魔獣を召喚した。
オスカーとエスター令息もいる。多少獰猛な魔獣だが問題ないなと思っていたが、何故か彼等は剣帯していなかった。
( リー、なんて事を……)
見ている側で、通りかかったメイドの女の子が魔獣に傷つけられてしまった。
「ちょ……⁈ 」
こんなはずじゃない! けれどこの距離では、俺に魔獣を消す事は出来ない。側に行かないと……
( ピカリムぐらいの物なら移動させる事は出来るけど ……)
エスター令息がその子を抱え、凄い速さで城の中へ走っていく。
侍従が剣を運んでくると、オスカーがあっという間に魔獣を始末した。すると、王妃様が魔獣を退治したオスカーに、リーとの婚約を迫っている。
( 何だ、それが目的だったのか……王妃様も知らないのか、あの事)
*
怪我をしたメイドの子は助かった。しかし、完治する前に治療室から逃げる様に出て行った。( 何か訳あり?)
その後、今度はマリアナ王女が頼みがある、と言ってきた。
「俺はリーの頼みしか聞かないよ」
「そんなに難しい事じゃないわ、お姉様の知り合いとしての貴方に頼みたいの」
「何それ、知り合い?」
「そうよ、だって友達でも恋人でも婚約者でもないでしょう? たまにしか合わない人なら知り合いでしょう?」
「……そうだな」
「たまにでも会えたり、話が出来る様にして上げたのは誰のお陰かしら⁈ 」
「君……かな」
「そうよね? だったら私の頼みも聞きなさい」
マリアナ王女に強要され、俺はエスターの『花』を攫うことになった。
「簡単に見つからない所にして! 魔獣も出して、その女が魔獣に食べられちゃってもいいから!」
「……分かった」
竜獣人の『花』を攫うか……マリアナ王女は後の事は考えていないのか? そんな事したら、エスター令息に嫌われるだろう⁈
それに……ヤツらに見つけられない所なんてあるのかよ。
( いや、逆にすぐ見つけられる所にしてやる )
この間の茶会での事に、内心腹が立っていた俺が思いついたのは『北の塔』だった。
十年ほど前、ガイア公爵が軽々と登っていったあの塔。結局俺は一度も登って見た事が無かった。
どんな所か見てやろう、と下見がてらに入った北の塔の最上階は……
「ココって……もしかして竜獣人が『花』を連れ込む部屋だったりして」
そこは女受けしそうな部屋だった。
敷いてある絨毯はフカフカで、寝転んでも痛くは無いだろう。無駄に置いてあるクッションはどれも柔らかくカラフルな布で作られている。
「はっ? なんで風呂まであるんだ? 下には備蓄倉庫まであんのか……ここ、住めるんじゃねぇの?」
あの時見たガイア公爵は…………俺はまだ子供だったから分からなかったが……そういう事か……
俺は北の塔の噂の真相を理解した。
エスター令息の力量は分からないが、二体ぐらいは余裕だろうと魔獣を飛ばし、透明な鎖で塔の周りに繋いだ。
**
色々あった結果、マリアナ王女は隣国の王子と結婚した。まあ、お似合いだと思う。
マリアナ王女が旅立ったその日、偶然を装って俺はリーと会った。
「行っちゃったね、マリアナ王女様」
「……バカな子よね」
彼女は、少しだけ寂しそうな顔をして、庭園に咲く花を見ながら話す。
「リーは、まだ……オスカーの事、諦めないの?」
「そうね、オスカー様に『花』が現れたら、諦めるしか無いわね」
「諦めてどうするの」
「どうもしないわ」
「結婚は? しないの?」
彼女ももう二十歳になった。この国ならば、とうに結婚していてもおかしくは無い歳だ。
「私は、いずれ王位を継がなければならないもの……お父様が決めた相手と結婚するわ」
諦めた様な顔をして、エリーゼは言う。
「……知らないの? 君もシャーロット嬢誘拐の件に関わっているから、王位継承権はミリアリア王女に移ったんだよ。だから結婚は、誰としてもいいんだってさ」
「そんなの……知らないわ」
「聞いてなかったんだろ?」
「…………」
「王様が決めた相手と結婚してもいいのなら……俺と結婚しない? 実はもう、王様から許可も貰ってる」
一瞬目を見開いたリーは、俺の顔をジッと見た。
「ジークは……相変わらず私が好きなのね」
「知ってたの?」
「……知ってたわよ。誰だって気づくでしょう、最初にあった頃は女の子みたいだったのに……髪型もオスカー様と同じ様にするし、いつも……ジークは分かり易いのよ」
「バレてたのか」
「オスカー様に『花』が現れてしまったなら……考えてもいいわ」
「それって……俺と結婚してもいいって事?」
「……そうね、お父様が良いと言っているのなら……いいわ」
「……本当? 本当に? 本当⁈ 」
「本当、本当ってうるさいわっ」
あの時、少し頬を染めたリーはそう言った。
言った‼︎
**
そして現在にもどる。
「リーはそんなにオスカーがいいの?」
「……ずっと好きだったもの」
「俺もずっと君が好きだ」
「…………」
エリーゼは拗ねた様に何も話さない。
「分かったよ、リー、ちゃんと話をしよう」
ジークはいつもより少し低い声でそう言うと、エリーゼの手を取り外へ出た。
「……ありがとうございます」
「……何か欲しい物はあるのかしら」
「欲しい物?」
( 何故急に欲しい物を聞いてくるんだ?)
「お父様が、あなたに褒美を与えるそうよ。それで何か欲しい物はないか、何故か私に聞いてくる様に言われたのよ」
(……ああ、そうか)
エリーゼ王女は、優雅な仕草でカップを口に運ぶ。
「何でもいいのですか?」
「いいわよ」
「じゃ……じゃあ、エリーゼ王女様の事を今から『エリーゼ』と呼ぶ様にする、というのでもいいでしょうか?」
ぐっ、エリーゼ王女は紅茶を喉に詰まらせた。
ケホケホと咳込み胸を叩く。
「そ、それが褒美なの⁈ 」
彼女は目を見開き、俺を見た。
「はい、俺にとっては……この上なく」
俺は微笑み、彼女を見る。エリーゼ王女はすぐに目を逸らし、なんだか恥ずかしそうに言った。
「エリーゼと呼ぶのはダメよ……他の呼び方なら……構わなくてよ」
「じゃあ『エリー』?」
「それもダメ」
「リーゼ?」
「それもダメよ、私だとすぐに分かってしまうわ」
「エリーゼ王女様を呼ぶのに分かるとダメって……」
( どう言う事だよ?)
「じゃあ……『リー』でもいいですか?」
「……いいわ、それで」
「敬語を止めても?」
「どうしてよっ」
「俺、稀代の魔獣術師だから、それに歳上だし」
「訳が分からないわ…………勝手にしなさい」
それから俺は、エリーゼ王女様を『リー』と呼ぶ様になった。
『リー』と呼ぶたびに、ツンと拗ねた様な顔をする彼女はめっちゃ可愛い。
**
今から一年程前だ。
偶然なのか、廊下ですれ違ったリーが足を止め俺に聞いて来た。
「ねぇジーク、あなた城の中に魔獣を呼び出せる?」
「……何するつもり?」
「今度のお茶会で、オスカー様とエスター様にショーをしてもらおうかと思っているの」
「ショー?」
オスカーなら瞬殺だし、問題はないか……そんな軽い気持ちで引き受けた。
( リーの頼みなら断ったりしない )
「出来るけど……必ず剣を持たせて置くんだよ、約束だからね」
「……分かったわ」
こうして王妃主催のお茶会で魔獣を召喚した。
オスカーとエスター令息もいる。多少獰猛な魔獣だが問題ないなと思っていたが、何故か彼等は剣帯していなかった。
( リー、なんて事を……)
見ている側で、通りかかったメイドの女の子が魔獣に傷つけられてしまった。
「ちょ……⁈ 」
こんなはずじゃない! けれどこの距離では、俺に魔獣を消す事は出来ない。側に行かないと……
( ピカリムぐらいの物なら移動させる事は出来るけど ……)
エスター令息がその子を抱え、凄い速さで城の中へ走っていく。
侍従が剣を運んでくると、オスカーがあっという間に魔獣を始末した。すると、王妃様が魔獣を退治したオスカーに、リーとの婚約を迫っている。
( 何だ、それが目的だったのか……王妃様も知らないのか、あの事)
*
怪我をしたメイドの子は助かった。しかし、完治する前に治療室から逃げる様に出て行った。( 何か訳あり?)
その後、今度はマリアナ王女が頼みがある、と言ってきた。
「俺はリーの頼みしか聞かないよ」
「そんなに難しい事じゃないわ、お姉様の知り合いとしての貴方に頼みたいの」
「何それ、知り合い?」
「そうよ、だって友達でも恋人でも婚約者でもないでしょう? たまにしか合わない人なら知り合いでしょう?」
「……そうだな」
「たまにでも会えたり、話が出来る様にして上げたのは誰のお陰かしら⁈ 」
「君……かな」
「そうよね? だったら私の頼みも聞きなさい」
マリアナ王女に強要され、俺はエスターの『花』を攫うことになった。
「簡単に見つからない所にして! 魔獣も出して、その女が魔獣に食べられちゃってもいいから!」
「……分かった」
竜獣人の『花』を攫うか……マリアナ王女は後の事は考えていないのか? そんな事したら、エスター令息に嫌われるだろう⁈
それに……ヤツらに見つけられない所なんてあるのかよ。
( いや、逆にすぐ見つけられる所にしてやる )
この間の茶会での事に、内心腹が立っていた俺が思いついたのは『北の塔』だった。
十年ほど前、ガイア公爵が軽々と登っていったあの塔。結局俺は一度も登って見た事が無かった。
どんな所か見てやろう、と下見がてらに入った北の塔の最上階は……
「ココって……もしかして竜獣人が『花』を連れ込む部屋だったりして」
そこは女受けしそうな部屋だった。
敷いてある絨毯はフカフカで、寝転んでも痛くは無いだろう。無駄に置いてあるクッションはどれも柔らかくカラフルな布で作られている。
「はっ? なんで風呂まであるんだ? 下には備蓄倉庫まであんのか……ここ、住めるんじゃねぇの?」
あの時見たガイア公爵は…………俺はまだ子供だったから分からなかったが……そういう事か……
俺は北の塔の噂の真相を理解した。
エスター令息の力量は分からないが、二体ぐらいは余裕だろうと魔獣を飛ばし、透明な鎖で塔の周りに繋いだ。
**
色々あった結果、マリアナ王女は隣国の王子と結婚した。まあ、お似合いだと思う。
マリアナ王女が旅立ったその日、偶然を装って俺はリーと会った。
「行っちゃったね、マリアナ王女様」
「……バカな子よね」
彼女は、少しだけ寂しそうな顔をして、庭園に咲く花を見ながら話す。
「リーは、まだ……オスカーの事、諦めないの?」
「そうね、オスカー様に『花』が現れたら、諦めるしか無いわね」
「諦めてどうするの」
「どうもしないわ」
「結婚は? しないの?」
彼女ももう二十歳になった。この国ならば、とうに結婚していてもおかしくは無い歳だ。
「私は、いずれ王位を継がなければならないもの……お父様が決めた相手と結婚するわ」
諦めた様な顔をして、エリーゼは言う。
「……知らないの? 君もシャーロット嬢誘拐の件に関わっているから、王位継承権はミリアリア王女に移ったんだよ。だから結婚は、誰としてもいいんだってさ」
「そんなの……知らないわ」
「聞いてなかったんだろ?」
「…………」
「王様が決めた相手と結婚してもいいのなら……俺と結婚しない? 実はもう、王様から許可も貰ってる」
一瞬目を見開いたリーは、俺の顔をジッと見た。
「ジークは……相変わらず私が好きなのね」
「知ってたの?」
「……知ってたわよ。誰だって気づくでしょう、最初にあった頃は女の子みたいだったのに……髪型もオスカー様と同じ様にするし、いつも……ジークは分かり易いのよ」
「バレてたのか」
「オスカー様に『花』が現れてしまったなら……考えてもいいわ」
「それって……俺と結婚してもいいって事?」
「……そうね、お父様が良いと言っているのなら……いいわ」
「……本当? 本当に? 本当⁈ 」
「本当、本当ってうるさいわっ」
あの時、少し頬を染めたリーはそう言った。
言った‼︎
**
そして現在にもどる。
「リーはそんなにオスカーがいいの?」
「……ずっと好きだったもの」
「俺もずっと君が好きだ」
「…………」
エリーゼは拗ねた様に何も話さない。
「分かったよ、リー、ちゃんと話をしよう」
ジークはいつもより少し低い声でそう言うと、エリーゼの手を取り外へ出た。