ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
呼び出された海岸までは、ジークの寄越した大きな鳥の魔獣に乗ってきた。鳥の魔獣はエスターを下ろすと、すぐさま空高く飛んで行く。
先に来ていたオスカーは、少し離れた場所に居るジークとエリーゼ王女様の様子を見ていた。
どうやらジークとエリーゼ王女は、砂浜の上で口論をしているらしい。
エスターはオスカーの横に立ち、同じ様に二人を眺めた。
「オスカー兄さん、これどう言う状況?」
「俺が今聞いた限りだと、ジークがエリーゼ王女に求婚し、一度良いと返事をした彼女が、なぜかそんな話は知らないと言い出したらしい」
「……で?」
「ずっと俺を好き#だった__・__#とエリーゼ王女様が言った」
「……それで? どうして僕が来ないといけなかったんだよ⁈ 」
「……さぁ?」
なんだよ……呼び出されて来てみれば、僕には全く関係ないじゃないか、とエスターは一人海辺を眺めた。
この地特有の白い砂に夕日が映え、茜色に染まっている。
キレイだな、今度シャーロットを連れて来よう。ここは人も少ないし、僕は人混みが苦手だから、彼女を何処にも連れて行ってないからなぁ……などとエスターはのんびり考えていた。
潮騒の聞こえる浜辺で、エリーゼ王女の大きな声がその音に負けずと響いていた。
「一体、私の何処をそんなに好きなのよ!」
城のサロンから、突然こんな場所まで連れ去られたエリーゼ王女は、すこぶる機嫌が悪かった。
彼女専用の、乗り心地の良い馬車で来たのでは無い。
ジークが呼び出した魔獣に乗せられて、ここまで来たのだ。気持ち悪い鳥の背中に紐で括り付けられ、気分は最悪だった。
「一目惚れ」
ジークは当たり前の様に言う。
「それって、見た目だけじゃない」
「リーがオスカーを好きな理由もそうだろう?」
「ち、違うわ」
エリーゼはオスカーの方を見たが、すぐに視線を落とした。
そんなエリーゼにジークは目を据える。
「見た目だけじゃないよ、俺はリーの、わがままで、意地っ張りで、一途で、一人では何も出来ないのに強がって、素直になれない所が好きだよ」
「何よそれっ! 私そんなんじゃないわ!」
( いや、ジークの言った通りだよ、と二人の会話を聞いているオスカーとエスターは思っていた)
「俺はさ、君がいたから魔獣術師の訓練も頑張った。体も鍛えて、リーの好みになる様に努力したんだよ」
ジークはせつなげにエリーゼを見つめるが、彼女は横を向いたまま砂浜に目を向けて、こちらを見ようともしない。
「私は……頑張れなんて一言も言ってないわ」
エリーゼの言葉にジークは悲しそうに頷いた。
「確かに……言ってないね。……リー」
ジークがエリーゼに声をかけても、彼女はコチラを見ようとはしない。その向こうでは、オスカーとエスターが端麗な顔をしてコチラを見ている。
はぁ、とため息を吐いて、ジークはエリーゼから遠ざかる様に歩き出した。
離れた場所に立ち、エリーゼの方を見るが、彼女は相変わらず、足下に目を落としたままだ。
( ……ちっとも俺を見てくれない…… )
ジークは手のひらを空に向け呪文を唱えた。彼を中心にして円形に結界が張られる。
「おい、ジーク何してんだよ!」
オスカーの焦る様な声に、エリーゼも何事かとジークの方を見た。
「戦っても戦わなくてもオスカーには敵わない。竜獣人で、顔も良くて公爵令息で……リーにも好かれてる。…………俺に無い物ばかりだよ」
ジークはまた呪文を唱える。
今度は、空一面に巨大な魔法陣が描かれた。
ズズズッとそこから魔獣の足が現れはじめる。
結界の前まで走って来たエスターとオスカーは、ジークに向かって叫んだ。
「結界を開いてくれ! このままじゃ俺たちが入れない!」
「その魔獣は人を喰う奴だ!」
二人は聖剣で結界を斬り裂こうとする。だが、ジークが張った結界は硬く、全く刃が立たなかった。
「もういいんだ。リーが結婚しないと言うのなら俺は……」
今までエリーゼ王女が見たこともない大きさの魔獣がジークの側に立ち、彼を狙い定めている。
その光景に、エリーゼ王女は恐ろしさでカタカタと震えた。
「エリーゼ王女様、結界を開くように言って下さい!」
オスカーが頼むが、彼女は震える体を自分の両腕で抱きしめながら、首を横に振る。
「……バカじゃないの⁈ 自分で呼び出したんでしょう! だったら何とかしなさいよっ」
ジークに向け、エリーゼは怒った様に言った。
「何とかなんて出来ないんです! ジークは魔獣術師で騎士じゃない! 呼び出せても攻撃魔法は出来ない、聖剣も持ってないんだ!」
「そんなの知らないわよ! ジークのバカッ! 魔獣に食べられて死んじゃったら、許さないんだから!」
「リー……」
「私と結婚したいって言ったのに、何故魔獣なんて出すのよ! オスカー様じゃないって言ったからって、彼と結婚したいとは言ってないわ! それに私は……私は王女様なんだからっ!」
「リー、言ってる事が支離滅裂だよ……私は王女様って、ふっ、ふはははっ」
「わっ笑ってる場合じゃないでしょう⁉︎ 」
「リーはやっぱり可愛いなぁ」
笑いながら、ジークは愛おしそうにエリーゼを見つめる。
「かっ可愛いって……」
その時、ジークの真上で、パックリと口を開けた魔獣が、その体を呑み込もうとしていた。
トロリとした液体が、彼の直ぐ横にポトリと落ちる。
「あ、やべぇ」
ジークは魔獣を見上げポツリと呟いた。
ーーパクッ
あまりにも呆気なく、ジークは魔獣の口にスッポリと咥えられてしまった。
「きゃあああっ‼︎ いやぁっ! ジーク‼︎ 」
エリーゼ王女の悲痛な声が海岸に響き渡る。
オスカーとエスターの手も、あまりの事に止まってしまった。
「嘘だろう……」
「喰われたぞ……」
ジークを咥えた魔獣は、そのまま固まった様に動かない。
「早くっ! 二人とも行ってよ! ジークを助けて! ジーク、ジークッ!」
エリーゼ王女の声に、ハッと我に返ったオスカーとエスターは、結界に剣を突き刺し破ろうと試みる「何やってんだよジークっ!」オスカーが足で蹴ってみても、二人同時に剣を当てても、傷一つ入らない。
頑丈な結界の中では、ジークを咥えた魔獣の目だけがギロリと動き、三人を捕らえていた。
先に来ていたオスカーは、少し離れた場所に居るジークとエリーゼ王女様の様子を見ていた。
どうやらジークとエリーゼ王女は、砂浜の上で口論をしているらしい。
エスターはオスカーの横に立ち、同じ様に二人を眺めた。
「オスカー兄さん、これどう言う状況?」
「俺が今聞いた限りだと、ジークがエリーゼ王女に求婚し、一度良いと返事をした彼女が、なぜかそんな話は知らないと言い出したらしい」
「……で?」
「ずっと俺を好き#だった__・__#とエリーゼ王女様が言った」
「……それで? どうして僕が来ないといけなかったんだよ⁈ 」
「……さぁ?」
なんだよ……呼び出されて来てみれば、僕には全く関係ないじゃないか、とエスターは一人海辺を眺めた。
この地特有の白い砂に夕日が映え、茜色に染まっている。
キレイだな、今度シャーロットを連れて来よう。ここは人も少ないし、僕は人混みが苦手だから、彼女を何処にも連れて行ってないからなぁ……などとエスターはのんびり考えていた。
潮騒の聞こえる浜辺で、エリーゼ王女の大きな声がその音に負けずと響いていた。
「一体、私の何処をそんなに好きなのよ!」
城のサロンから、突然こんな場所まで連れ去られたエリーゼ王女は、すこぶる機嫌が悪かった。
彼女専用の、乗り心地の良い馬車で来たのでは無い。
ジークが呼び出した魔獣に乗せられて、ここまで来たのだ。気持ち悪い鳥の背中に紐で括り付けられ、気分は最悪だった。
「一目惚れ」
ジークは当たり前の様に言う。
「それって、見た目だけじゃない」
「リーがオスカーを好きな理由もそうだろう?」
「ち、違うわ」
エリーゼはオスカーの方を見たが、すぐに視線を落とした。
そんなエリーゼにジークは目を据える。
「見た目だけじゃないよ、俺はリーの、わがままで、意地っ張りで、一途で、一人では何も出来ないのに強がって、素直になれない所が好きだよ」
「何よそれっ! 私そんなんじゃないわ!」
( いや、ジークの言った通りだよ、と二人の会話を聞いているオスカーとエスターは思っていた)
「俺はさ、君がいたから魔獣術師の訓練も頑張った。体も鍛えて、リーの好みになる様に努力したんだよ」
ジークはせつなげにエリーゼを見つめるが、彼女は横を向いたまま砂浜に目を向けて、こちらを見ようともしない。
「私は……頑張れなんて一言も言ってないわ」
エリーゼの言葉にジークは悲しそうに頷いた。
「確かに……言ってないね。……リー」
ジークがエリーゼに声をかけても、彼女はコチラを見ようとはしない。その向こうでは、オスカーとエスターが端麗な顔をしてコチラを見ている。
はぁ、とため息を吐いて、ジークはエリーゼから遠ざかる様に歩き出した。
離れた場所に立ち、エリーゼの方を見るが、彼女は相変わらず、足下に目を落としたままだ。
( ……ちっとも俺を見てくれない…… )
ジークは手のひらを空に向け呪文を唱えた。彼を中心にして円形に結界が張られる。
「おい、ジーク何してんだよ!」
オスカーの焦る様な声に、エリーゼも何事かとジークの方を見た。
「戦っても戦わなくてもオスカーには敵わない。竜獣人で、顔も良くて公爵令息で……リーにも好かれてる。…………俺に無い物ばかりだよ」
ジークはまた呪文を唱える。
今度は、空一面に巨大な魔法陣が描かれた。
ズズズッとそこから魔獣の足が現れはじめる。
結界の前まで走って来たエスターとオスカーは、ジークに向かって叫んだ。
「結界を開いてくれ! このままじゃ俺たちが入れない!」
「その魔獣は人を喰う奴だ!」
二人は聖剣で結界を斬り裂こうとする。だが、ジークが張った結界は硬く、全く刃が立たなかった。
「もういいんだ。リーが結婚しないと言うのなら俺は……」
今までエリーゼ王女が見たこともない大きさの魔獣がジークの側に立ち、彼を狙い定めている。
その光景に、エリーゼ王女は恐ろしさでカタカタと震えた。
「エリーゼ王女様、結界を開くように言って下さい!」
オスカーが頼むが、彼女は震える体を自分の両腕で抱きしめながら、首を横に振る。
「……バカじゃないの⁈ 自分で呼び出したんでしょう! だったら何とかしなさいよっ」
ジークに向け、エリーゼは怒った様に言った。
「何とかなんて出来ないんです! ジークは魔獣術師で騎士じゃない! 呼び出せても攻撃魔法は出来ない、聖剣も持ってないんだ!」
「そんなの知らないわよ! ジークのバカッ! 魔獣に食べられて死んじゃったら、許さないんだから!」
「リー……」
「私と結婚したいって言ったのに、何故魔獣なんて出すのよ! オスカー様じゃないって言ったからって、彼と結婚したいとは言ってないわ! それに私は……私は王女様なんだからっ!」
「リー、言ってる事が支離滅裂だよ……私は王女様って、ふっ、ふはははっ」
「わっ笑ってる場合じゃないでしょう⁉︎ 」
「リーはやっぱり可愛いなぁ」
笑いながら、ジークは愛おしそうにエリーゼを見つめる。
「かっ可愛いって……」
その時、ジークの真上で、パックリと口を開けた魔獣が、その体を呑み込もうとしていた。
トロリとした液体が、彼の直ぐ横にポトリと落ちる。
「あ、やべぇ」
ジークは魔獣を見上げポツリと呟いた。
ーーパクッ
あまりにも呆気なく、ジークは魔獣の口にスッポリと咥えられてしまった。
「きゃあああっ‼︎ いやぁっ! ジーク‼︎ 」
エリーゼ王女の悲痛な声が海岸に響き渡る。
オスカーとエスターの手も、あまりの事に止まってしまった。
「嘘だろう……」
「喰われたぞ……」
ジークを咥えた魔獣は、そのまま固まった様に動かない。
「早くっ! 二人とも行ってよ! ジークを助けて! ジーク、ジークッ!」
エリーゼ王女の声に、ハッと我に返ったオスカーとエスターは、結界に剣を突き刺し破ろうと試みる「何やってんだよジークっ!」オスカーが足で蹴ってみても、二人同時に剣を当てても、傷一つ入らない。
頑丈な結界の中では、ジークを咥えた魔獣の目だけがギロリと動き、三人を捕らえていた。