ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
結界の中央に無傷で立っているジークが、エリーゼをせつなげな目で見ている。

「ジーク……」

「本当に?」

 結界の外に立つエリーゼの下へ、ジークが歩いてくる。

「ねぇリー、さっきの話は本当? 俺の事好きだった?」
「……バカ」
エリーゼの美麗な緑色の目には、大粒の涙が浮かんでいた。

「俺はリーが好きだ。ずっと、君を想ってきた」
エリーゼが瞬きをすると、涙が頬を伝いドレスに落ちていく。
「……死んだかと思ったじゃない」
「リーを置いて死んだりしないよ」

ジークは結界に手を添えた。
ガラスの様な結界に夕日が映りキラキラと輝く。

「もう一回言ってよ」
「何を……よ」
「好きだって、俺を愛してるって言って」

「私は……頼まれた事をするのは嫌」
「……リー」

はぁ素直じゃないなー、とジークは項垂れる。

「じゃあ仕方ない、俺はシャーロットちゃんと結婚する」
「…………⁈ 」
ニヤリと笑いジークはエスターを見た。

「はぁ? どうしてここでシャーロットが出てくんだよっ! 彼女は僕の妻だっ!」

ドンッ! とエスターが結界に拳を当てると、バキバキッとヒビが入り粉々に砕け落ち消えていった。
エスターは勿論、オスカーとエリーゼ王女も目を丸くしている。

「えっ、ちょっとどう言うことよ、さっきは全然破れないと言ってたのに⁈ アレは演技だった訳?」

キッ、とエリーゼはエスターに指を差し睨む。

「いや、さっきまでは本当に割れなかったんです!」
「あなたねぇ!」

 エスターを指差すエリーゼの手を、ジークは掴むとそのままグイッと体を引き寄せ、抱きすくめた。

「ジーク……⁈ 」

「他の男を見るな」

ジークは少しだけ体を離し、エリーゼの顔を覗き込む。
「俺を見てよ」
彼の紫と金と銀の入り混じる目は、蕩けるように甘くエリーゼを見つめている。

「あなた、いつもそんな目で私を見るから……恥ずかしくて……顔を見ることが出来なかったのよ」
そう話すエリーゼの頬は赤く染まっていた。

「そう……だったのか?」


エリーゼは頷き、それから見上げるように彼を見つめた。

「そんなに私を好きなの?」
「……ずっと、恋い焦がれているよ」

その言葉に、エリーゼの目にはまた涙が浮かび、ツッと流れ落ちる。


「本当に私と結婚したいの? 私は贅沢するわよ? 庶民の暮らしなんて出来ないもの。それでもいいの?」

「贅沢? そんなの幾らでもしたらいい」


 ジークは彼女の頬に流れる涙を拭うと、その柔らかな金の髪を一房手に取り、口づけを落とした。

「俺以外、君を幸せに出来る奴はいない。俺と……結婚してよ」

「……いいわ……私でよければ」

「リーがいいんだ」


 ジークは、エリーゼに顔を寄せた。ジークの熱い吐息を間近に感じ、ビクッと一瞬震えたエリーゼだったが、そのまま少し顔を上げる。

 二人の唇がほんの少し触れた。

エリーゼの長い睫毛が伏せられる。
もう一度、優しく重ねたジークの唇は、彼女の涙で濡れた。

「……やっぱり、嫌だった?」

違う、とエリーゼは首を横に振る。

「じゃあ何で泣くの? リー」

ジークは、甘く蕩けるような目でエリーゼを見つめた。その目をエリーゼはしっかりと見つめ返す。
「……だって……嬉しくて」

泣きそうな顔をして目を細め、ジークは愛しい人の名前を呼んだ。


「エリーゼ」



**



 陽は落ちて星が瞬きはじめた海岸で、オスカーとエスターは何をするでもなく、キスを交わす二人を見守っていた。

「僕、何しに来たのかな?」
「俺も……もう帰ってもいいよな? 今夜はティナと祭りに出掛ける予定だったんだよ」

「祭り?」

「知らないのか『氷祭り』今夜だぞ? あっ……まさかエスターお前、父さんと同じで、ずっと家に閉じ込めてるんじゃないだろうな? たまにはシャーロット嬢を連れて出掛けろよ」

「……僕は出掛けるのは好きじゃなかったから」
( 閉じ込めてるって……)

「いや、シャーロット嬢は好きかも知れないだろ? 祭りぐらい連れて行ってやれよ」

「……うん、そうする」





 エスターは、エリーゼ王女と抱き合っているジークに声をかけ、鳥の魔獣を出してくれる様に頼んだ。

 ジークがパチンと指を鳴らすと、二匹の鳥の魔獣が地上に降り立った。

「指を鳴らすだけで魔獣を呼べるなんて、ジークお前って本当に凄いんだな」

「当たり前だろ? 俺は希代の魔獣術師なんだぞ」

「結界まで張れるなんて知らなかったよ」

「ああ、あれはまだ実験段階だったんだよ。でも上手く出来てたな、お前達にも破れなかったなら大成功だ」
「まさか、その為に呼んだ?」

ジークは明らかに目を逸らした。
「……早く帰れ、俺はエリーゼとこれからデートするんだから」

 エリーゼ王女は、ジークの腕の中で頬を染め、恥ずかしそうに微笑んでいた。

この人、こんな風にも笑えたんだ、とエスターは思う。
( でも、僕はやっぱり来なくてもよかった気がする)



 幸せな二人に別れを告げて、オスカーとエスターは鳥の魔獣に乗り、それぞれの家に帰って行った。
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