ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

氷祭りに行こうよ

「『氷祭り』に行こうよ!」

 エスターがジークに呼び出されたその日の夕方、屋敷にジェラルドとドロシーの息子達がやって来た。
 二人には十五歳になる双子の息子と、十二歳の双子の息子がいる。今、四人は学園の寄宿舎に入っていて、今夜は祭りに行く為に外出許可を貰ってきていた。

「父さんはここに居ないといけないけれど、母さんは出掛けてもいいでしょう? あ、クレアさんも一緒に行きましょうよ! もし宜しければ、シャーロット様も、僕らと一緒に行きませんか?」

「えっ、私もいいの?」
「もちろん!」

息子達の明るい返事にジェラルドは慌てた。

「だ、ダメだ、エスター様がいない時に外に出しては……」

「えっ、何で出掛けたらいけないの? シャーロット様って外に出たらいけない人?」

「それは……」

「母さんも行くのに?」
「そんなに心配なら、ダンさんも一緒に行けばいいじゃん」
「シャーロット様、行きたそうな顔してるよ⁈ 」

息子達の言葉に、シャーロット様を見れば、彼女は子供の様に目をキラキラと輝かせている。

「……シャーロット様、祭りに行きたいのですか?」
ジェラルドが尋ねる

「はい、行きたいです! 両親が生きていた頃は、毎年一緒に出掛けていたんです」

嬉しそうな顔をしたシャーロット様に見つめられて、言葉に詰まってしまった。

「しかし……」
いいのだろうか……。
ドロシーに目を向けると、彼女も困った様な顔をしている。


そんな二人を見かねて、クレアが呆れた様に言った。
「エスター様がいつお帰りになるか分からないし、キチンと準備して出掛けたら、大丈夫だと思うわよ?  祭りの会場は騎士団も見回りをしているもの、危ない事もないでしょうし、ダンも行けば大丈夫じゃないの?」

その言葉に息子達とダンが頷く。


 確かに『氷祭り』は、子供がメインの祭りで危ない事は殆どない。
しかし、スリなどはいるだろう。
誘拐などはないだろうか? 

 父であるレイナルド公爵家執事バロンから、私とドロシーは言われていた。
シャーロット様は二回攫われたことがある。外に出ると、危ない目に遭うから気をつける様にと。
それから、変な男が寄って来るから注意する様にとも。
 それを聞いた時は、そんなの偶然だろうと思っていたが、この前は家の中にいたのに、危ない事に巻き込まれたのだ。変な男は来ていないが……。( 変なお菓子を運ぶ男は来るようになった……)
……不安しかない。


「やっぱり、エスターがいないと……ダメですよね」

 シャーロット様は諦めた様な顔をしていた。

この家に暮らし始めてから、殆ど外に出ていないシャーロット様。

ほとんど……⁈ ずっと屋敷の中ではなかったか?



年に一度の祭りなんだ。



「分かりました。お祭りを楽しんで来て下さい」

ジェラルドは覚悟を決めて返事をした。
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