ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
ドロシーは、シャーロットに防御魔法が施された下着を着けさせると( カミラさんから、出掛ける時は必ず着せるようにと言われていた) 夜の町中でも見つけやすい様に、黄色のワンピースを着せた。

 もちろんシャーロットを一人にするつもりはないが
( 祭りは人も多いから……用心に越した事はないわよね……)
 最近少し妖艶な魅力が見られるシャーロットの事を考え、髪型もワザと幼さを感じさせる様に、二つに分け三つ編みを施した。

これで大丈夫だろう、ただ

「わぁ! シャーロット様かわいい!」
「本当、人妻とは思えないな」
「人妻って言ったって、二つ歳上なだけだもんな」
「うん、相手がエスター様じゃなかったら、絶対声かける」

四人の息子達の話に「バカな事言うなっ!」とジェラルドは慌てている。


息子達がこの反応……。だ、大丈夫かしら……。


 そう言われている本人は「わぁ、お世辞でも嬉しいです!」と、自分の魅力は分かっていないようだ。



 少し不安に思いながら、息子達とシャーロット様、ダンとクレアの八人で『氷祭り』へ向かった。
祭りの行われている町までは屋敷から、馬車で三十分程度。

 町の入り口で降ろしてもらうと、上の双子達が恭しく両手を出してきた。

「何? お小遣いが欲しいの?」

二人揃って、にっこりと笑顔で頷く。

ジェラルドによく似た顔に、ドロシーはダメとは言えずお小遣いを渡した。
(……どうしても息子には甘くしちゃう……)

お小遣いを貰った息子達は、ドロシーの頬にキスをする。
「じゃあ僕らは彼女と待ち合わせているから、後でね」
「えっ、二人共彼女いるの?」
大きく頷く十五歳の双子達は「まだ付き合い始めたばかりなんだ。僕達、彼女たちと約束してるから」と言った。

「あなた達、本当はお小遣いをもらいに来ただけのようね」
「バレたか……」

 上の双子と別れ、六人は祭で賑う町の中に入って行った。



ーーーーーー*




 久しぶりに見る町の景色に心を躍らせた。


 昔から行われている『氷祭り』は、子供の無病息災を願う祭りだ。子供達は、氷を模したお菓子を食べる。

 両親が生きていた頃は、毎年連れて来てもらっていた。
たくさんの人と笑い声、お菓子の甘い匂い。夜に出かけるワクワク感。私はこの時に売られている、ゼリーにお砂糖をまぶしたようなお菓子が好きだった。

 思い出に浸りながら、お店を見て回る。町は氷をイメージしてか、白や青い提灯が提げられている。花束やアクセサリーも売ってあり、そこでは多くの恋人達が、楽しそうに選び、買っていた。

 祭りに来ている人達の多くは、氷をイメージした白や青、銀色の衣装を着ている。
 その中でも、子供達がよく着ていた衣装は、第一騎士団の騎士服を模した物だった。
 騎士団の隊服は、形こそ同じだが『色』がそれぞれの騎士団で違う。
第一騎士団は白、第二騎士団は黒、第三騎士団は紺、第四騎士団は緑だ。

 昔から、騎士は人気の職業の一つだった。
優しくてカッコいい、魔獣にも勇敢に立ち向かう、そんな姿に男女共に憧れている。


 町中には、騎士に扮装した子ども達が、たくさん歩いていた。剣の代わりに小さな剣の形の飴を下げている。

すごく可愛い!

「エスターもあんな風に服を着て、祭りに来たのかしら」
( 一度もすれ違った事は無いけど、居たのかも知れないなぁ )

 ドロシーさんに聞くと、彼女は首を横に振った。

「エスター様は……祭りの様な人混みが苦手なお方なので、五歳の頃行かれただけですね。その後は、騎士になった年に一度、王女様達の護衛として、仕方なく行かれただけです」
「えっ、それだけ?」
「ええ、その時も大変だったらしく……」
「その時も?」

 話をしながら、町の中央付近まで歩いて来た。
そこには、三代前の王様の愛馬の石像があり、その回りにはベンチが置いてある。すでに家族連れや恋人達が座り寛いでいた。


「ちょっと何処かお店に入って休みましょう」
「探してくるから、この辺りで待っていてください」
ダンさんとクレアさんが、みんなで入れる所がないか探しに行ってくれた。

ドロシーさんと息子さん達は、すぐそばのお店でジェラルドさんや自分用に、お土産を買っている。
私はみんなの後ろに立って待っていた。


その時


シュッと後ろの方で音がした。


「シャーロッ……」
私を呼ぶ声がしたと同時に、町は騒がしくなった。

「キャアアッ! エスター様だわっ!」
「うっそ、本物っ」
「第二騎士団だぁっ!」

きゃあきゃあと言う黄色い声にそちらを向くと、そこには昼間出掛けたそのままの、第二騎士団の隊服を着ているエスターがいた。


 エスターは人気がある。( 本人は気づいていないけど )
十七歳、もうすぐ十八になるが、美しい容姿は変わらず、更に凄艶さを増している。
剣技に優れ、冷静で表情を崩さない彼。そんな彼が、運命的な出会いをし、結婚した妻をこよなく愛している、と言う事も人気に拍車をかけた。
 それにエスターの姿は滅多に見る事が出来なかった。最近では、魔獣討伐に向かう馬上姿を見れた者は幸せになれる、と言うジンクスまで出来ていた。


そのエスターが突然現れたのだ。


 あっという間に人集りが出来、私は人混みに押されてしまった。
女性ばかりでは無い、騎士は男性や子供の憧れでもある。

「邪魔だ、どけ」
「ちょっと見えないわ」

 私がエスターの妻だとは、ここにいる人達はきっと誰も知らない。結婚式は身内ばかりで行ったし( 私の身内はソフィアだけ呼んだ)二人で出かける事は……ほとんど無かったから。

 人混みに押され、気付けばエスターからも遠く、ドロシー達とも離れてしまっていた。

 みんなは何処だろうとキョロキョロとしていると、足元を走って来た小さな子供に「お姉ちゃんどいて」と押されてしまった。
バランスを崩しよろめいた私を、近くにいた人が支えてくれた。

「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます。助かりました」

「あら? あなたは……エスター様の奥様ですね」

 支えてくれたその人は、祭りの警護をしていた第三騎士団の、美しい女性騎士だった。
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