ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
「お客様、お代わりはいかがですか?」

お店の人はキャロンさんの空のカップを下げながら、通りを眺めていた私に聞いてきた。

「あ、お代わりはもういい……あれ?」
「まじか……シャーロットちゃん、久しぶりだね」

耳元でキラリと光る三日月の耳飾り。
城で出会った、カイン様だった。

「カイン様、何してるの?」
「ん? 今夜はここで仕事してるんだよ」

 よく見ると、彼はお店の名前が入った茶色いエプロンを着けていた。
カイン様は私が飲み干した空のカップを見た。
「あー、これ飲んだのか……さっき女性騎士と一緒に入って来たよね? 彼女はどこに行ったのかな? 他には誰かいないの? エスターくんはどうした、君一人じゃないだろう?」

そう言ってカイン様は通りに目をやった。

「あ、そこにエスターくん居るじゃないか……お?」

 カイン様の視線の先を見ると、銀色の髪が見えた。
黒い隊服を着たエスターの側には、赤い髪の美人がいる。二人は何やら話をしていたが、女性がエスターに腕を絡ませると、そのまま歩いて行ってしまった。

「エスター……浮気してる」
「いや! 彼は仕事してるだけだよ、人探しなんじゃないかな?」
「そうなのかなぁ」

……なんだろう……人探しって腕を組むの?

「私とは腕を組んでお出掛けしてくれないのに……」
「シャーロットちゃん⁈ 」
「大人の女性とは歩いて行っちゃうんだ」
「あれは、仕事だって。その証拠に隊服着てるじゃないか」
「でもっ! お祭りに行くなんて言ってなかったものっ!」

ぷうっと頬を膨らますシャーロット。


それを見てカインはボソリと呟いた。
「はぁ、相手が竜獣人じゃなかったらな……」


 シャーロットは、カインにぐっとカップを突きつけた。
「カイン様、お代わり持ってきて!」
「え、いやダメだよ君は、これでも酔っ払うだろう⁈ 」( すでに少し酔ってるし……)


「だいじょうぶっ! どうせジュースなんだもんっ!」




ーーーーーー*




 十分後、ようやくシャーロットのもとに、ダンとクレアと合流したドロシー達がやって来た。


「まず、私に説明をさせてほしい」
テーブルに突っ伏して、寝てしまっているシャーロットの横に座るカインは、冷たく見下ろしてくる五人に向け言った。


 店に女性騎士と彼女が入って来た。その時はチラリと見ただけで気が付かなかったが、空のカップを下げにきたところ、知り合いのシャーロット様だと分かった。
 自分がここに来た時には、女性騎士は居なくなっていて、彼女は一人だった。
 私は、彼女がエスター様と結婚した事は知っていた、だから彼はどこにいるのかと聞きながら、通りを見下ろした。
そこにちょうどエスター様が見えた。
仕事だと思うが、彼は女性と歩いて行ってしまった。
 それを見たシャーロット様が、自分はどこにも連れて行ってもらえないのにと言い出して、拗ねてしまった。
その後、グリューワインを注文し、半分ほど飲んだ。

「シャーロット様は『エスターの浮気者』とさんざん言って寝てしまいました。じゃあ、私は仕事に戻ります」
話を終え、立ち去ろうとするカインを、ダンが止めた。

「知り合いって⁈ シャーロット様とどこで知り合ったんだ」

ダン達から怪訝な顔を向けられたが、カインは素知らぬ顔をした。

「ディーバン男爵の屋敷で。何度か配達に行ったことがあるんだよ、私はいろんな仕事をしているからね」

 今度こそ行こうとすると

「女性騎士ってどんなヤツだった?」

 はぁ、しつこいなぁコイツ、と思ったが顔には出さないように仕事上の笑顔でカインは答えた。

「獣人だったよ、黒髪の美人だった、耳の形から猫獣人だね」

「今夜の警護は第三騎士団、黒髪の猫獣人……キャロンか……」

「もういいかな? 仕事に戻らないと、今夜は忙しいんだよ」

「あ、ああ済まなかった」
「すみませんでした。ご迷惑をおかけしました」

 ドロシー達からお礼を言われ、笑顔を向けたカインは、そのまま仕事に戻ることなく消えた。エスターには一度姿を見られている(彼は覚えているはずだ、あの時目が合ったから)。
 必ずここに彼女を迎えに来るだろう、以前シャーロットを攫ったんだ、会えば捕まえられるかもしれない。



ーーーーーー*





 ダンは不思議そうな顔をして、寝ているシャーロットの様子を見ていた。
「なぁ、グリューワインで酔うのか?……今夜の物はジュースだろう?」

ドロシーに尋ねた。

「そういえば聞いた様な気がするわ、確かシャーロット様、ぶどうジュースで酔うのよ」

「……マジ?」

 確かそうだ、エスター様が「僕がいない時は絶対飲ませないで」と言っていたんだったわ……。
 寝ているシャーロットの頬に手を当てると、彼女はフッと口角を上げた。具合が悪い訳ではない様だとホッとする。


「はぁ……どうやって連れて帰ろうかしら」
「あー、俺が背負って帰るしかないか……」

 ぽりぽりと頭を掻きながらダンが言う。

「ドロシーさんと私で抱えて帰る方がいいんじゃない?」
「もう少し待って見ましょう、シャーロット様が起きるかも知れないわ」
「そうだなぁ……」

困った様に話す大人達に、ドロシーの息子達が言った。
「さっき、エスター様来てたじゃん」
「エスター様を連れて来ようよ、その辺にいるんじゃないの?」

ドロシーの息子達はベランダから、通りを見下ろした。

「あっ、いた‼︎ 女の人と一緒にいる」
「仲良さそうに腕組んでる」

「腕を組んでる?」
「何ですって!」

息子達の言葉に、ドロシー達も慌てて見ると、確かに赤い髪の女性と腕を組んでいる。


「ほーらねぇ……私なんかより、美人の女性がいーのよ……私とは……出掛けてくれないのに……」

いつの間にかドロシーの横に並び、エスターを見下ろしていたシャーロットは低い声で言った。

「シャーロット様……」
目が座っている……
本当に酔っているみたい……ジュースで……


「もういい……」


「あっ、待ってください、シャーロット様‼︎ 」

 拗ねた顔をして、階段を下りようとするシャーロットに、ドロシーは慌てて声をかけた。
< 134 / 145 >

この作品をシェア

pagetop