ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
 だから……

 外で、彼がこんなに人に見られて、囲まれるのだとは知らなかった。

二人で町を歩くのは、これが初めてだ。


彼は……いつもこんな風に……

「どうかした?」
「あのね……いつもこうなの?」
「ん?」
「外ではこんなに人が集まるの?」
「どうかな、僕もあまり人の多い所には行かないから、今夜は何だか見られているけど……気になるの?」

「はい、恥ずかしい……です」

エスターが出かけたがらない理由が、何となく分かる気がした。

「じゃあ、もう行こうか。シャーロットが僕の妻だと、皆も分かってくれただろうしね」
「えっ?」

 エスターは私を抱き抱えると、トンっと地面を蹴った。
その姿にワアッと歓声が上がる。
彼に向け、たくさんの人が手を振っていた。やっぱりエスターは人気があるんだ……



 店の屋根の上に降りると、彼はトントンと足取りも軽く屋根伝いに歩いていく。
ほとんど足音を立てずに、歩いていく彼(と私)の姿に気づいている人は、警護をしている騎士達ぐらいだった。

「ちょっと行きたい所があるんだ」

屋根から屋根へ、彼は私を抱えたまま飛ぶように移っていった。

「ついたよ」
そっと下ろされたそこは、祭りの会場からは少し離れた、町の端にある教会の屋根の上だった。

「シャーロット」
「何?」
「いつも家の中ばかりでごめんね」
抱きしめられ、チュと髪にキスをされた。

「どうしたの?」
「これからはもっと二人で出かけようと思って」
「え」
「じゃないと、君が僕の妻だって事を知らないヤツに取られそうだから」
「そんな事絶対ないわ」
「いや、シャーロットはモテる」

私が? そんな事無いのに……エスターはおかしな事を言う


「ねぇシャーロット、あっちみて」

 彼が指差す方向には、高い山が聳えている。その頂きはキラキラと光っている。

 氷祭りの夜に見られるその光は、山頂にある氷に月の光りが当たり、光を放って見えているのだと子供の頃聞いた。

「あれ『ピカリム』って言う魔獣が集まって光っているんだって」
「魔獣なの?」
「そう、ジークが教えてくれた」
「集まって何かをしているの?」
「繁殖……ピカリムは年に一度、氷祭りの夜に子供を作るんだって、いつも山の頂きが光るのは何でだろうって思っていたけど、そう言う事だったんだ」
「私……氷が月の光を受けて、光って見えるんだと思ってた」
「たぶん、ほとんどの人がそう思っているよ」

知らない事ってまだたくさんある……
キラキラ光る山の頂きを、彼の優しい腕の中から見ていた。

「キレイ……」
「うん、そうだね」

スルリと頬を撫でられ彼を見上げると、金色に輝いた瞳が私に向けられていた。

「エスター……」

 鼻と鼻を触れ合わせ、クスリと笑うと、彼は顔の角度をかえた。

目を閉じると、唇に熱い吐息を感じた……
二人の唇が軽く触れたその瞬間


何かに気づいたエスターがハッと顔を上げ、祭りの会場の方に目を凝らした。



キャアアッ! わあっ! 魔獣だぁっ‼︎

 大勢の悲鳴や叫声が聞こえてくる。
祭りの会場には、三頭の魔獣が現れていた。

 屋根の上にいる大きな魔獣に何人もの騎士達が向かっている様だ。
聖剣の音と光が何度も見える。
空を飛びながら人々に襲いかかろうとする魔獣にも騎士達が応戦している。

人々の悲鳴と魔獣の咆哮、そして聖剣のキイィンという音が町中に響いてくる。
だが、魔獣は中々駆逐されない。
警護をしていた騎士達だけでは、人々を守りながら戦う事に、苦戦しているようだった。


「エスター、行って!」

竜獣人の彼なら、容易に討伐出来るはずだ。


「シャーロットを置いては行けない」
「大丈夫、私は大丈夫よ。エスター、子供達を皆を守ってあげて!」

会場には、子供達もたくさん居た。
お店の人達も、幸せそうな恋人達も、たくさんの守るべき人達がいる。

ここは会場から離れている。魔獣はいない。
私は大丈夫だと、エスターに笑顔を見せる。

「あなたなら簡単に退治できるでしょ、私の騎士様」

だから皆の所へ行って。
手で彼の胸を押す私に、エスターは切なげな目を向けた。


「すぐ戻るから」

飛ぶように皆の下へと向かう彼は、夜空に流れる星の様だった。
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