ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
夕刻になり、俺達はようやく王女達から解放され公爵邸に戻ることができた。
夕食後、俺は父に今日起きた出来事の報告をした。城での事は全て話す決まりになっているからだ。
「それで、戻って来たエスターの瞳が金色に見えたのです」
昼間の話をすると、書き物をしながら聞いていた父の手が止まった。
「……エスター」
「はい、父上」
父は真っ直ぐに、机の前に立つエスターを見つめその銀色の目を光らせた。
「その女性と会った時、他に何か感じなかったか?」
「あ……その」
エスターは恥ずかしそうに口元を手で隠し、父から目を逸らす。
ほう、と父は獲物を見つけたかの様に更に目を輝かせエスターを見ている。
「その子に触れたか?」
「……その……彼女は僕の不注意で怪我を負ったのです。その時、抱き抱えて、それから今日……肩を……」
( ああ、あの子がそうだったのか……あの時の ……?)
「その時に、何かこう体に変化を感じなかったか?」
「……はい、感じました。その、何というか鼓動が速くなるというか、触れている場所から体が熱くなって……目が離せなく……」
何か思い出したのか、エスターは真っ赤になって話している。
それを見て父はニヤッと笑っていた。
「オスカーより先に『花』と出会ったようだな」
「えっ、『花』と会ったのか⁈ 」
「『花』? 何ですか?」
ああ、エスターには話していなかったな、と父はエスターに竜獣人には『花』と呼ばれる魂が惹かれ合い、互いに愛してやまない相手がいる事。
成人を迎える頃に必ず出会うのだと、触れれば体が反応し、見つめ合えば、『花』を見る竜獣人の瞳は金色に変わるのだと話した。
( あれ? 俺、目の色が変わる話聞いていないぞ……)
父の話を聞いたエスターは納得した様だった。
「そうか……だからこんなに……」
「会いたくて堪らないだろう?……ふふ、私にも覚えがあるからな、まぁ私はその場で攫って来たが……」
何かを懐かしむように父は語る。
「ああ、だからお祖父様に嫌われているのですか……なるほど」
前から不思議に思っていたんだ、お祖父様の父を見る目は何故あんなに厳しいのだろうと……。
「んんっ、私の話はいいから、エスター、そのお嬢さんは何処の誰だ?」
「城で……メイドをしている女性です」
「そうか、我がレイナルド公爵家は身分など関係ない、王族とは異なるのだから気にせずとも良い。お前は彼女にきちんと伝え、意思を確かめたなら明日にでも連れて来るといい」
攫うと私のように後が大変だからな、と父は言った。
「はい!」
その時のエスターの顔は晴れやかで、俺は羨ましさを感じた。俺も早く出会ってみたい、そんな風に思える相手に。
「その子の名前は何と言うんだ? 名前ぐらい聞いているんだろう?」
「シャーロットです。シャーロット・ディーバン」
「ディーバン?」
「どうかされましたか?」
急に真顔になった父に、不安げにエスターは尋ねた。
「ディーバンとは、まさかあのディーバン男爵……」
その名前を聞いた父は、慌てた様に机の上にある書類の山から何かを探しはじめた。
「あった! エスター、お前のシャーロット嬢はレオンの結婚相手になっているぞ⁈ 」
父が持っていた手紙を奪うように手に取って見たエスターは愕然としていた。
それはレオン・ドルモア伯爵からの結婚披露パーティーの招待状だった。
手紙には【レオン・ドルモア伯爵、三人目の妻としてシャーロット・ディーバン男爵令嬢を迎える。パーティーの日程は……】と記されていた。式はせずに披露目だけで済ませるらしい。
下働きメイドの彼女は男爵令嬢だったのか……
ん? 何故男爵令嬢がメイドをしていたんだ?
「そんな……シャーロットは僕の人だ」
エスターは今すぐにでもドルモア伯爵の家に押しかけそうな勢いだった。
「まぁまて、レオンならばお前も良く知っている相手だ、それに三人目ならばきっと何か事情がある。まず、明日レオンの所に行き、話をつけてそれからシャーロット嬢に会いに行く方がいいだろう」
「…… はい」
「それから、もう一つ聞くが、印は付けたのか?」
「印?」
俺も聞いた事がないと父に尋ねると「ああ、言っていなかったか⁈ 」と話しはじめた。
「印は……この人は自分のだという獣人が付ける所有の証だな、獣人なら直ぐに気づくが、人には分からないからな、それが原因で揉める事も多いが……」
「それで、どうやって付けるのですか⁈ 」
エスターが尋ねると父はフフンと愉しげに笑う。
「竜獣人は目の色が変化している間に、体の何処かにキスをすれば良いだけだ。ま、出会ったばかりで、知らなかったのだから印をつけるのは無理か」
「…… しました」
「……ん?」
「だから、その……彼女に印は付いていると思います」
「いつの間にそんな事出来たんだよ?」
( 俺知らないぞ⁈ )
「別れ際……その……したくなって………もう、僕は部屋に戻ります」
弟はこれ以上は話したくないと言った様子で部屋を出て行った。
負けた……何もかも先を越された……
いや、俺はキスぐらいした事はある( 正確にはされたのだ ) だが、『花』に会う事も、印を付けることも何もかも……弟に先を越された……
項垂れる俺に父は残念そうな顔をしている。
「まぁ、そう落ち込むな? オスカー、普通は長子から出会う者だが、お前たちは王女達から他の女性と関わる事を妨害されているからな、それでも出会うものだから私も黙っていたのだが」
「確かに、エスターは出会いましたね……」
「そうだな……」
ーーーーーー*
翌朝、まだ夜も明け切らぬ頃、エスターはドルモア伯爵の屋敷へと向かった。
夕食後、俺は父に今日起きた出来事の報告をした。城での事は全て話す決まりになっているからだ。
「それで、戻って来たエスターの瞳が金色に見えたのです」
昼間の話をすると、書き物をしながら聞いていた父の手が止まった。
「……エスター」
「はい、父上」
父は真っ直ぐに、机の前に立つエスターを見つめその銀色の目を光らせた。
「その女性と会った時、他に何か感じなかったか?」
「あ……その」
エスターは恥ずかしそうに口元を手で隠し、父から目を逸らす。
ほう、と父は獲物を見つけたかの様に更に目を輝かせエスターを見ている。
「その子に触れたか?」
「……その……彼女は僕の不注意で怪我を負ったのです。その時、抱き抱えて、それから今日……肩を……」
( ああ、あの子がそうだったのか……あの時の ……?)
「その時に、何かこう体に変化を感じなかったか?」
「……はい、感じました。その、何というか鼓動が速くなるというか、触れている場所から体が熱くなって……目が離せなく……」
何か思い出したのか、エスターは真っ赤になって話している。
それを見て父はニヤッと笑っていた。
「オスカーより先に『花』と出会ったようだな」
「えっ、『花』と会ったのか⁈ 」
「『花』? 何ですか?」
ああ、エスターには話していなかったな、と父はエスターに竜獣人には『花』と呼ばれる魂が惹かれ合い、互いに愛してやまない相手がいる事。
成人を迎える頃に必ず出会うのだと、触れれば体が反応し、見つめ合えば、『花』を見る竜獣人の瞳は金色に変わるのだと話した。
( あれ? 俺、目の色が変わる話聞いていないぞ……)
父の話を聞いたエスターは納得した様だった。
「そうか……だからこんなに……」
「会いたくて堪らないだろう?……ふふ、私にも覚えがあるからな、まぁ私はその場で攫って来たが……」
何かを懐かしむように父は語る。
「ああ、だからお祖父様に嫌われているのですか……なるほど」
前から不思議に思っていたんだ、お祖父様の父を見る目は何故あんなに厳しいのだろうと……。
「んんっ、私の話はいいから、エスター、そのお嬢さんは何処の誰だ?」
「城で……メイドをしている女性です」
「そうか、我がレイナルド公爵家は身分など関係ない、王族とは異なるのだから気にせずとも良い。お前は彼女にきちんと伝え、意思を確かめたなら明日にでも連れて来るといい」
攫うと私のように後が大変だからな、と父は言った。
「はい!」
その時のエスターの顔は晴れやかで、俺は羨ましさを感じた。俺も早く出会ってみたい、そんな風に思える相手に。
「その子の名前は何と言うんだ? 名前ぐらい聞いているんだろう?」
「シャーロットです。シャーロット・ディーバン」
「ディーバン?」
「どうかされましたか?」
急に真顔になった父に、不安げにエスターは尋ねた。
「ディーバンとは、まさかあのディーバン男爵……」
その名前を聞いた父は、慌てた様に机の上にある書類の山から何かを探しはじめた。
「あった! エスター、お前のシャーロット嬢はレオンの結婚相手になっているぞ⁈ 」
父が持っていた手紙を奪うように手に取って見たエスターは愕然としていた。
それはレオン・ドルモア伯爵からの結婚披露パーティーの招待状だった。
手紙には【レオン・ドルモア伯爵、三人目の妻としてシャーロット・ディーバン男爵令嬢を迎える。パーティーの日程は……】と記されていた。式はせずに披露目だけで済ませるらしい。
下働きメイドの彼女は男爵令嬢だったのか……
ん? 何故男爵令嬢がメイドをしていたんだ?
「そんな……シャーロットは僕の人だ」
エスターは今すぐにでもドルモア伯爵の家に押しかけそうな勢いだった。
「まぁまて、レオンならばお前も良く知っている相手だ、それに三人目ならばきっと何か事情がある。まず、明日レオンの所に行き、話をつけてそれからシャーロット嬢に会いに行く方がいいだろう」
「…… はい」
「それから、もう一つ聞くが、印は付けたのか?」
「印?」
俺も聞いた事がないと父に尋ねると「ああ、言っていなかったか⁈ 」と話しはじめた。
「印は……この人は自分のだという獣人が付ける所有の証だな、獣人なら直ぐに気づくが、人には分からないからな、それが原因で揉める事も多いが……」
「それで、どうやって付けるのですか⁈ 」
エスターが尋ねると父はフフンと愉しげに笑う。
「竜獣人は目の色が変化している間に、体の何処かにキスをすれば良いだけだ。ま、出会ったばかりで、知らなかったのだから印をつけるのは無理か」
「…… しました」
「……ん?」
「だから、その……彼女に印は付いていると思います」
「いつの間にそんな事出来たんだよ?」
( 俺知らないぞ⁈ )
「別れ際……その……したくなって………もう、僕は部屋に戻ります」
弟はこれ以上は話したくないと言った様子で部屋を出て行った。
負けた……何もかも先を越された……
いや、俺はキスぐらいした事はある( 正確にはされたのだ ) だが、『花』に会う事も、印を付けることも何もかも……弟に先を越された……
項垂れる俺に父は残念そうな顔をしている。
「まぁ、そう落ち込むな? オスカー、普通は長子から出会う者だが、お前たちは王女達から他の女性と関わる事を妨害されているからな、それでも出会うものだから私も黙っていたのだが」
「確かに、エスターは出会いましたね……」
「そうだな……」
ーーーーーー*
翌朝、まだ夜も明け切らぬ頃、エスターはドルモア伯爵の屋敷へと向かった。