ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
氷祭りの夜、エリーゼ王女と思いを交わしたジークは、エリーゼと夜空を飛んでいた。

 青い鳥の魔獣の上に布を敷き、四隅をピカリムに持ち上げさせて乗せると、エリーゼはとても喜んだ。

( ピカリムを見て目を輝かせている……かわいい……) ジークは、素直に甘えてくるエリーゼが可愛くて仕方なかった。
 空の上で何度もキスをしていた時、エスターが乗って行った黒い鳥の魔獣が戻って来て、何やら伝えてこようとする。
「ギャァギャァ!」
「…………」
 魔獣の言っていることは、魔獣術師でも分からない。
ジークがキョトンとしていると、魔獣はクチバシでジークの髪を引っ張った。
どうやら、来いと言っているようだ。

 仕方なく、エリーゼを城へ送り届けてすぐに、黒い鳥の魔獣に乗って行くと、そこには意識のない傷だらけのシャーロットちゃんを抱いて、馬車へと乗ろうとするエスターがいた。

ジークは一緒に馬車に乗り、エスターから事情を聞いた。
屋敷に着くと、すぐ後から来た治癒魔法士サラ様が、シャーロットちゃんに治癒魔法を施した。
しかし、傷は癒せたが目覚めない。体も冷たいのだと言う。

……そこであの方法を思い出した。
魔獣に傷つけられた、『花』に、己の体力を与える事が出来たという、竜獣人の赤い目。

 出来るかは半信半疑だったが、エスターくんはやり遂げた。後は口移しと書いてあったから、キスだろうと思い彼に告げた。

 それを試させている間に、ある事を調べようと考えて、エスターの屋敷にサラ様を残し、一旦自宅へある物を見るために帰った。

部屋の本棚にある、数冊の古い日誌を取り出し、朝まで熱心に読んだ。

「やっぱり……確かめてみよう」

 朝、ジークはレイナルド公爵邸に向かった。

 オスカーに『花』であるティナ嬢と共に、実験に協力してくれと頼むと、二人はすぐに頷いた。

 しかし、ローズ様が「大切なお嫁さんにそんな事はさせられないわっ! 私が行きます」と言いだした。
「俺は別に誰と行っても構わないよ」と、オスカーが同行しようとすると、今度はヴィクトール閣下が現れて「ローズは私の『花』だから私が同行する」と言い、三人で城の訓練所に向かうことに決まった。

城へ行こうとすると、ローズ様が持っている隊服を着て行くと言い出し、しばらく待った。

隊服を着て現れたローズ様を見たヴィクトール閣下が、目を輝かせている。

……嫌な予感がした。


「ジーク、我が公爵家の料理は美味しいと評判なんだ」
突然、ヴィクトール閣下がそんな事を言い出した。
「……はあ」
( なぜそんな話を?)

「食べていくだろう?」
王国最強騎士の鋭い目がキラリと光る。

「……いや、また今度」
( 俺、朝からはあまり食べないんだけど)

「食べるよな?」
有無を言わせない、冷たい銀色の目に見つめられる。何もしていないのに、背筋の凍る思いをした。

「……はい、いただきます」

「ゆっくり食べるといい、デザートも絶品だからな」

ヴィクトール閣下はそう言うと「ちょっと、ヴィクトール何するの⁈ 」と慌てふためくローズ様を抱えて、部屋へと戻って行った。


 俺は用意されたフルコースを食べ、さらに別に用意されたデザートまで食べた。

「くっ苦しい……」
( 何で朝から肉料理ばかり出るんだよ…… )



 半日が過ぎた。

 レイナルド邸の玄関にある庭園で、俺は二人を待った。
ウトウトとしていると、公爵家の執事が「シャーロット様が目覚めたと連絡がありました」と教えてくれた。
すぐに行きたかったが「こっちの用事が済んだら行きます」と伝えてくれるように頼んだ。


エスター……めちゃくちゃ早くないか?
そんなにすぐに目覚めるのか? 体力を注ぐのは簡単な事じゃないはずだ。
いや……書いてあった事が、間違っているのかも……それとも俺が読み間違えたのかもしれない……



しかし……遅い。

 俺はこの国に三人しかいない、稀代な魔獣術師なんだ。それも術師の力は一番強い。

 暇じゃない。


 だが、待たされている相手はレイナルド公爵閣下だ。
仕方ない、文句を言っても勝ち目は無いし……もう少しぐらい待つさ。





 俺が城で召喚訓練を行なっていた頃、竜獣人はガイア公爵閣下とオスカーしか呼ぶ事が出来なかった。 

 オスカーと訓練を行った後、竜獣人とは訓練を禁止すると通達があった。
召喚訓練は、騎士達の訓練も兼ねていたからだ。なるべくなら、多くの騎士に訓練を受けさせたい、それに、本来強い彼等には訓練は要らないと言う事だった。

 だから、実は少し楽しみにしている。
ヴィクトール閣下の実力を、この目で見る事が出来るから。


 日が傾く前に、ようやく現れた満足気なヴィクトール様とローズ様と共に、俺は城へ向かい実験を始めた。
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