ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
仕立て屋が呼ばれたのは、その二日後の事だった。

「ーーひいいっ‼︎ 」


仕立て屋の女性の悲鳴が部屋中に響く。
その後を、叔母とソフィアの罵声が続いた。

「なっ! 何なのこれはっ‼︎ 」
「気持ち悪いっっ!」

仕立て屋の女性、叔母とソフィアは、採寸をする為に下着姿になり露わとなった私の背中を見て青ざめている。


ーーーそんなに?

 私はあれから背中を一度も見ていないのだ。
キョトンとする私に、仕立て屋が姿見を二つ向い合わせて、私に背中を見る様に言った。

「うわぁ……」

背中には数本の魔獣の爪痕が残っていた。
斜めにはしる紫色の爪痕は紫色に歪に膨らんでいる。

……体を洗う時は、あまり触れない様にしていたから気づいてなかった……

……見た目ほど痛くはないが……確かに、自分の体でなければ悲鳴も上げてしまうだろう。
色も形も……かなり気持ち悪いかも……

「どういう事なのっ! この体ではドルモア伯爵に何と言えばいいのか‼︎ 」

恐ろしい物でも見るかの様に、叔母は私の背中の爪痕から顔を背けている。

「……城で魔獣に襲われたのです」

「何をバカなことを! 城には結界が張ってあるでしょう⁉︎ 」

「本当です、突然魔獣が現れて……そこに居合わせてしまったのです。死んだかと思いましたが、城の治癒魔法士様に命を助けていただいたようなのです」

城の治癒魔法士と聞いて、叔母は目を顰め私を見た。

「お前……治療費はどうしたの?」

( まずそこなのね…… 心配はして貰えないと分かってはいたけどお金の事が先に気になるとは……)

「あの……払えないと思って、逃げました」
「逃げた……」
「はい、誰にも見つからない様に……こっそりと……多分、大丈夫だと思います」

それを聞くと安心した様に叔母は頷いた。

「そう……ならばいいわ。そうよ、お前のその体もどうせ服を着ていれば見えやしないものね! あちらに行ってからなら、その気持ちの悪い背中を見られても構わないわ」

 機嫌を取り戻した叔母は、仕立て屋にそのまま採寸をさせてデザインを決めていた。仕立て屋に三日で作ってくる様にと無理を言い、この娘の体の事は他言無用よ、と少額の口止め料を支払った。
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