ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
エスターはシャーロットを後ろの馬車に乗せると、渋々マリアナ王女と同じ馬車へと乗り込んだ。

 あの日、父から『花』の事を聞き、レオンと話を付けた後、エスターは、会いたい気持ちを胸に抱えて城へと急いだ。
しかし、シャーロットはマリアナ王女の命で解雇された後で、既に城には居なかったのだ。

 直ぐに男爵家に向かおうとした矢先、マリアナ王女が目の前に現れた。

 エスターは物干場で会ったメイドの女性こそが、自分にとって竜獣人が『花』と呼ぶ唯一の愛する人なのだとハッキリと王女に言った。

彼女しかもう見えないし、愛せない。

王女にはハッキリと言わなければ分かってもらえないと思い伝えたのだ。

それを聞いたマリアナ王女は青ざめていた。

ワナワナと震える手を押さえながら
「……分かりましたわ……それならば私は貴方を諦めるしかありませんわね……」そう言って、ホロリと涙を流して見せたマリアナ王女。


「………エスター様ぁ」

「……何か?」

「私、諦めますわ、貴方を諦めますから最後に一日だけ……たった一日でいいのです。恋人として過ごして欲しいのです」

 侍女に手渡されたハンカチを目尻に当てながら、マリアナ王女は媚を含んだ目でエスターを見つめる。

しかし、エスターは王女に何の感情もない声で答えた。

「出来ない」


 そもそも、エスター達は父から( 父は王から)頼まれて王女達と会っていたのだ。本来なら騎士としての仕事を優先したい所だが、仕方なく王女達との時間に当てなければならなかった。

 それにエスターにはシャーロットという愛すべき人が見つかったのだ。嫌々会っていた相手などと、それも恋人として一日も過ごさねばならないなどとても考えられなかった。

 その返事に、マリアナ王女はスッと表情を変えた。甘える様な顔が冷たく表情のない顔になる。

「………その娘、まだ治癒が済んでいないのでしょう? 体には醜い傷が残っているそうね」

 その言葉にエスターはハッとした。シャーロットがあの時怪我を負ったメイドだとは話していない。物干場で会った事だけを言った筈だ。

何故マリアナ王女は知っている⁈

「シャーロット・ディーバンでしたわね」
「何故、名前を……」
「うふふ……私に付いている者達は優秀ですの、それに近衛の中に大変耳の良い者もおりましたのよ」

 物干場に来た近衛の中に獣人がいたのか……気が付かなかった。あの時僕は彼女に夢中だったし、王女の声も五月蝿くて……

「彼女に何かするつもりなのか?」

「まさか、そんな事をして何になると言うのです? ただ、私は貴方と最後に思い出が欲しいだけ、それだけですわ」


「私のお願い、聞いて頂けますわね?」

 聞かなければシャーロットに何かするかもしれない、それに治癒魔法士に会わせる事も出来なくなりそうだ……エスターはそう考えて要求を受け入れる事にした。

「一度だけだ。半日だけ、それなら」

「ええ! 十分ですわ!」

 願いが聞き届けられ満足し、いつものように媚びる様な笑顔を見せるマリアナ王女。
最後だと思えば我慢できる。エスターはそう思った。
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