ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
「シャーロット、好きだ」

ギュッと抱きしめられている腕に力がこもり、ちょうど背中の傷に当たった。そこからズキッと痛みが走る。

「いたっ……」
「はっ……ごめん、力が強すぎた?あ、もしかして傷?傷が痛むんだね⁈ ああ、もう僕何やって……」

そう言うとエスターは私を横抱きにした。

「僕に掴まって、今すぐサラの所へ連れて行くから」
( サラ?って……誰?)

 彼は私を抱いたまま、トンと軽く窓枠に飛び乗ると、迷う事なくそのまま飛び降りた。
「………!」

 私は落とされない様に、とにかく必死で彼にしがみ付いていた。上半身裸の彼の首に腕を絡めると、かなり密着してしまい恥ずかしさが恐怖を上回った。


 彼はまるで羽根のように地上に降りる、とそこに一人の治癒魔法士の服を着た女性が立っていた。
塔の下で待っていた女性は、最初に私を治療してくれた命の恩人だった。

「城の治癒魔法士長のサラ・ドリンズよ、あなたがあの時のお嬢さんね」
「はい、あの時はありがとうございました。その……何も言わずに居なくなって、ごめんなさい」
「いいのよ、それより……」

サラ様は私達を見て( 特にエスターを……) 呆れた顔をしている。

「あのね、私もこういう事は言いたくはないのよ。でもね、人を待たせておきながらイチャイチャしてたんでしょ⁈ 挙句に何ですか、エスター令息のその格好は! まったく竜獣人は手が早いって本当よね!」

「いや、僕はまだ何も出来ていない」

「聞いてないから! 聞いてやらないから‼︎ ほら、サッサと公爵家に向かいますよ」

「はい」

 私達三人は、そこに待っていたレイナルド公爵家の馬車に乗った。

「だから! 馬車に乗っている時ぐらい、彼女を離しなさい」
「嫌です」
「おばちゃんに見せつけるな! この若造めっ!」
「見なければいいでしょう? 僕はもう離さないって決めたんだ」
「見るわよ、見るでしょう? こんな面白そうな二人が目の前にいるんだから」
「あなたが一緒じゃなければ、もっと……」
「いやーっ、若者はすぐそんな事ばっかり考える、いやらしいわっ!」
「いいでしょう? ただ膝の上に抱いてるだけなんだから。今、僕はかなり我慢してるんだ」


……恥ずかしいです。

私はあれからずっとエスターの腕に抱かれたままで( 離してもらえず ) レイナルド公爵邸へと向かっている。

 馬車の中で、繰り広げられている二人の会話も、こうして抱きしめられている事も恥ずかしくて仕方ない。


けれど……

……同じくらい嬉しかった。


私を抱くエスターの腕はとても優しくて、伝わる熱は温かく心を包み込む。


こんなに大切に扱われるのは……


優しい腕に抱きしめて貰うのは

お父様とお母様が亡くなって以来だった。
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