ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
お湯から上がると、着替えが置いてあった。
ピンク色のネグリジェ……。
( ……これを着るのよね……?)

初めて着たネグリジェが心許なくて上からガウンを羽織り、隣の部屋へと出た。

そこには少し年配の女性が立っていた。

「初めまして、メイドのカミラと申します。シャーロット様のお手伝いに参りました」
カミラさんは丁寧にお辞儀をされて、私は慌てて挨拶を返した。

「初めましてシャーロット・ディーバンです。よろしくお願いします」

私が挨拶すると、カミラさんは優しく微笑み、こちらこそ宜しくお願いしますと言ってくれた。

「お支度をしましょうね」

そう言って、私を二つ扉を開けた先の部屋へと連れていくと体に香油をつけてくれた。

「ごめんなさい、手が荒れていて……」

私の手に香油を塗ってくれるカミラさんに申し訳なく思い謝った。私よりもカミラさんの手の方がキレイだ。

「いえ、そんな事気になさらないでください。お仕事をされていたと聞いております。ご苦労なさったのですね」

優しく手に香油を塗りながら話すカミラさんの声が胸に響いた。

「……いえ、苦労なんて」

 私は小さく首を横に振る。
苦労なんて言えるものでは無い。
確かに両親が亡くなってから、慣れないメイドの仕事をする事になったが、それが苦労かと言われれば大した事では無かった。

 私よりももっと大変な思いをしてきた人はたくさんいる。城でメイドをしていた半年間に知り合った人には家も家族も無い人もいた。
私には家があり、叔父達は言葉では冷たく当たってはいたけれど、それでも私を引き取ってくれた。

城へとメイドに出されもしたけれど、それはもしかしたら、エスターに出会うための運命だったのかも知れない。( ……と今は思う )



 カミラさんは背中にも塗りましょう、自然治癒も大切ですよ、と体にも香油を塗ってくれた。

「まぁ、傷は殆ど見えませんね、さすがサラ様ですわ」
「痛みも全くなくなりました。サラ様はすごい方なのですね」
「そうですね、この国一番の治癒魔法士でいらっしゃいますからね」

話しながら、撫でる様に香油を塗るカミラさんの手がふっと止まった。

「シャーロット様、何かお悩みですか?」
「え……?」
「お顔の色が暗いですわ、それに体にも緊張が見られますわ」
「……分かりますか?」

カミラさんは優しく頷き、私で良ければお聞きします、と言ってくれた。

聞いてみてもいいのだろうか、あの事……

「あの、カミラさんはずっとここにお勤めですか?」
「ええ、ヴィクトール様が御結婚されてからずっと此処におります」
「では、エスターの事は」
「もちろん、産まれる前から知っておりますよ。何でもお聞きください」

ふふっとカミラさんは笑うと、髪を整えましょうねと鏡の前に移り、梳いてくれた。


「……その……エスターは、私に会う前に…お付き合いされていた方はいないのでしょうか」
「お付き合いされていた方?」
「……マリアナ王女様とか……」
「マリアナ王女様ですか⁈ ……何故そんな事を?」
「……今日、エスターはマリアナ王女様とお会いされていたのです」

髪を梳いてくれているカミラさんの手が、ゆっくりになる。

「何故? 王女様とエスター様が? 本日はシャーロット様をお迎えに行く、とだけ聞いておりましたが」
「お約束があったらしくて……その、お約束から戻ってこられた時」
「シャーロット様の元へですね?」
「はい……その時、エスターは何故か『ごめん』と謝ったのです」
「まぁ! それは……」

カミラさんの手は完全に止まり、暫く考えていた。

「シャーロット様のお気持ちは分かりましたわ。しかし、私が口を出してよい話ではありませんからね、気になる事は直接聞かれたらいいですよ。エスター様は隠し事をしたり、怒ったりされる方ではありませんから」
と優しく言うと、また髪を梳いてくれた。

胸元までの髪は片方に流されて軽く結われ、金色のリボンが着けられた。

「さぁ、お支度は整いました。隣のお部屋でエスター様をお待ち下さい」

 大丈夫ですよ、とカミラさんは優しく微笑むと部屋を後にした。
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