ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

無理、治療費払えません

「…… う……痛い……」

 まだ夜も明けぬ時間に、背中に感じる引き攣る様な痛みで私は目覚めた。
ずくずくとした痛みが走るが、これくらい耐えられない事はない。

体を起こし周りを見ると、城の治療室だと分かった。ここには最近、シーツや治癒魔法士の服を運んで来た事がある。

「…… 私、ああ……そうか……」


 昼間、城の下働きとして働いている私は、物干場へ行こうと一人で庭園裏の脇道を歩いていた。なんだかいつもと違い、やたらと騒がしい。

 そうか、今日は庭園でパーティーが行われていたな、ずいぶん賑やかだ……とのんびり考えていた。まさか魔獣が出て騒いでいるとは思っても見ない、城には結界が張ってあるのだからそんな事はありえないのだ。

「危ない!」と少年の叫ぶ声が聞こえたと思ったら体は空を飛んでいた。

……そういえば、凄くステキな男の人が手を差し伸べていたなぁ、と思い出してちょっと顔を赤らめた。

 私、生きてる… 絶対死んだと思ったけど   ( 飛んだしね )

助かったのか……

…… でも、ここは城の治療室……

という事は……

… 私は治療を受けたという事⁈


ああっ……ムリ、ムリムリ!

私、治療費払えない!

どんな治療されたんだろう⁈ 死んだと思えた程の怪我が、今は耐えられるくらいの痛みで済んでいる…… という事は…… 。

…… いや、絶対高額!

私の様な下働きのメイドに払える訳が無い!



 …… 逃げよう……

幸い今は人の姿は見当たらない。

 城には千人を超える人が働いている。私の様な茶色い髪の下働きのメイドなどゴロゴロいるのだ。… きっとバレない。

( 命は助けてもらったけれど…… ごめんなさい。私には、払うお金がありません!)

 私は音を立てない様にゆっくりとベッドから降りた。

( ……! うわぁっ! 服着てなかったっ‼︎ )

 手で前を隠しながら何か着る物をと探すと、ベッドの横にカゴが置いてあり、中に着ていたメイド服が入っていた。

持ち上げて見ると、血だらけの上にぼろぼろになっている。

( …… 大丈夫、着れない事はないわ)

 私はそれを着て、ベッド下にあった靴を手に持つと、足音を立てない様に治療室を抜け出した。

 治療室からメイドの宿舎まではさほど遠くはなかった。

誰にも見つかる事なく部屋に戻ると、もう朝日は昇り始めている。とりあえず服を着替えて軽く身支度を整えると仕事場へと向かった。


 シャーロットは、城には半年の契約で働いており、それも後一週間で終わるのだ。そのお給金を持って、あの家に帰らねばならない。

( あのまま死んでいたら帰らなくても良かったのか……それでも良かったかも知れないわね……)
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