ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
「まずはコレにお着替え下さい、それからこの仮面を着けていただきます」

人形の様に表情の無いメイドが、壁に掛けてある真紅のドレスを指し示す。

「あの、必ず着替えなければならないのですか?」

「はい、本日のお茶会では、皆さまにこちらを着て頂く様にと、王女様から仰せつかっております」

 抑揚のない話し方で言われ、私は仕方なくドレスを着替えた。

 真紅のドレスに着替えると、仮面を手渡された。赤い羽根の着いた目元だけを隠す仮面を着けると、ようやくホールへと通された。



 ホールに、同じドレスを見に纏い仮面を着けた令嬢達が集まった。
違うのは髪の色と少しの体型の差だろうか。

 少し離れた場所から、金髪の令嬢が近づいて来た。

「シャーロット、ちょっとコッチに来て」

 その令嬢はソフィアだった。彼女は私の腕を取りホールの隅へと行くとヒソヒソと話を始める。

「コレ、おかしいわよ」
「やっぱりそうなの?」
「仮面を着けたお茶会なんて、今まで聞いた事ないわ。それにドレスまで着替えさせるなんて……見てよ、髪の色以外見分けがつかないじゃない」

「……ソフィアはよく私と分かったわね?」

 私と同じ茶色い髪の令嬢は半数ほどいる。同じくらい金髪の令嬢もいて、私にはどの令嬢がソフィアなのかは分からなかった。

「わ、分かるわよ、何年一緒に住んでいるのよ」
「だって、いつもあんなに……」
( 私の事、怒ってばかりだったのに……)

「嫌だって思うものほど気になって見ちゃうもんでしょ」

 きまりの悪そうな顔をして話すソフィア。
今日は彼女の意外な一面ばかりを見ている気がする……。



 二人で話をしていると、ホールの両開きの扉がギィと音を立てて開いた。

 そこから黒い仮面を着けた男性が何人も入ってくる。
皆、黒いタキシード姿で、背格好も同じようにみえる。令嬢達と同じく髪の色でしか見分けがつかない。

「えっ……!」
驚いた声を上げたソフィアは、私の腕を掴み急いで令嬢達の輪の中へと入った。

「ちょっと、困るわ、レオンは他の男性の匂いをとても嫌うのに! 女性だけだというから私は来たのよ!」

 そう言っている側から、男性達は次々と令嬢達の手を取っていく。彼等は流れてきた音楽に合わせ踊りはじめた。

「私、帰るわ」
「えっ、ソフィア待って」

 会場を出て行くと言ったソフィアは足早に去り、人混みに紛れてしまった。
探そうと見回すが、ホールは令嬢達と入って来た男達、先程私達を案内したメイド達と、いつの間にか用意された軽食や飲み物を給仕する人等で溢れかえっていて、ソフィアが何処に居るのか全く分からなかった。
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