ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
カイン様は自身の着けている仮面を外し素顔を見せた。短髪な黒髪。赤橙色の目が印象的な整った顔立ちの青年。踊った時は無かった銀の三日月型の耳飾りが、鈍い光を放っていた。

「ある時は子爵、またある時は行商人、偶に貴族の奥様方のお相手もする、いわゆる何でも屋だよ。いなくなった猫を探したりね」

「何でも屋?」
「そう」
「そんな人がどうして王女様のお茶会にいたの?」

「王女様達から依頼が来たんだ、君を攫って悪戯しろって、報酬も多くてさ。まさか相手が竜獣人の『花』とは聞かされてなかったけどね」

「あなた獣人なの?『花』の事どうしてしって……」
「ああ、私? そうだよ豹獣人……って、あれ?さっきのは只のジュースだよ?」

あれ?
あれって何?
なんだろう……体がふわふわしてきた。
ふわふわするけど、体は熱いまま……


それに……何だか楽しい気持ちがする。


「豹獣じん、なの……ね」

「どうかした? シャーロットちゃん、顔赤いよ? 目も蕩けちゃってる……」

 
 うーん、なんだろう……

……急にすごく面白くなってきた。
何が面白いのか分からないけど、カイン様のキレイな顔も面白い。コッチを見てるのも面白い。
髪も短くて面白い。エスターみたいに長くない。
短い……髪

「うふふふふ……かみ、みじかいねぇ……」

カイン様は目を見開いて私を見ている。
どうしたのかしら?

「君、もしかして酔っ払ってる? まさかぶどうのジュースで酔っ払うなんて……プッ……あははっ!」

「なにが……おかしーのっ!」
ぷうっと頬を膨らませ睨む私を見て、カイン様はさらに笑った。
( 何で私はこうも初対面の人に笑われるのかしら )

「ごめん、もしかしたら最初に飲ませた薬が影響したのかもしんねぇ……うはははっ!」

「わーわないでっ!」

カイン様はお腹を抱えて笑っていた。

「体質的に弱いのかも知れないね、偶にいるらしいからジュースでも酔っ払ってしまう人……でもねぇ」

「よってないれす」

ちょっと言葉は変だけど、意識はしっかりしてるもの。

カイン様は私をみて何だか悶えている。

「あー酔っ払ってんのかわいいなぁ! 触りてぇ、でも触るとヤベーしなぁ」
「さわる?」
何を触るんだろう? そう思ってカイン様に聞く。

「うん、楽しいことしてみようか?シャーロットちゃん」
私を見る赤橙色の目が、ギラギラと光っている様だ。

「いやっ!」

何を言っているのかしらこの人。
触っていいのはエスターだけなのに。
私はプイッとそっぽを向いた。

「ふふっ……体は熱くない? 全部脱いじゃえば涼しくなるよ?」

……確かに体は熱い。
全部脱げは涼しくなる?

「ぬぐ?」
首を傾げてカイン様を見る

「……いや」

それまで笑っていた彼はなぜか困惑した様な顔になった。

「うそ、脱いじゃダメだよ」

私に少し近づいて目を細める。

「そんなに純真な顔されちゃったら何も出来ないな、こんな事ならドレスを剥ぐ前にキスぐらいしておけばよかった」

「ダメよ、キチュはエシュターだけらの」

そう言う私にカイン様はクスリと笑った。

「エシュター? エスター令息の事?」
「エシュターはだーいしゅきなひとれす」
「そっかー、そうだね。キスは好きな人とした方がいいね」

カイン様は空のコップに何かを注ぎトレーに置いた。

「これは水だよ、まだ喉渇いているでしょ? 水を飲めば酔いは早めに醒めるから」
「んー」

 まだ喉が渇いていた私はコップを手に取り少しずつ飲んでいく。
それを確認したカイン様は安心した様に微笑んだ。

「それでは、私は帰るよ。この分だと王女様達は報酬をくれなさそうだし、このままではレイナルド公爵に見つかってコテンパンにやられちゃうしね」

「やられちゃう?」
「うん、君を攫ってしまったからね。だから私は行く、実はここに抜け道見つけていたんだ。私の仕事は何が起こるか分からないからね、下調べは大切なんだよ」

カイン様は床の一部を持ち上げた。そこには下へと続く階段が見える。

「じゃあね、シャーロットちゃん」

「どこいくの? あたちは?」

「もうすぐ迎えが来るから待ってなよ。大丈夫、君が一番会いたい人の筈だから」

 彼はじゃあ、と手を振り階段を降りていった。床は元の様に閉じられて、入り口がどこにあるのか分からなくなった。


「なんだったの……かなーっ?」

 注いでもらった水を飲み干しコップを置いた。

喉の渇きは大分収まったみたい。
でも体は熱いまま。
何だかまだふわふわする。
楽しい気持ちも続いているけど……

パタンとそのままベッドに横になった。

ひんやりしたシーツの感触が気持ちいい。




「エシュター……」


 エスターを思いながら、いつの間にか私はまた眠ってしまった。
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