ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
「エシュター?」

 何故黒い人になっていたんだろう?
まるでさっきのお茶会にいた男の人達みたいな格好だ。

「シャーロット、心配したんだよ」

エスターは私の頬を持ちぐいぐいと引っ張った。
「いらい……れしゅ」
「痛くしてるんだよ」
「しどいっ!」
「ああっもう!」

そのまま頬を挟まれ、チュ、とエスターがキスをする。

「なにしゅるのっ」
「かわいい……」
「かわい?」

珍しく彼の目尻が下がっている。

「でもね……」
「でも?」
「なぜドレスがはだけてるんだ 」

さっきの甘く下がった目が、一瞬で凍る様に冷たく鋭い瞳に変わった。

( ……怖いっ! エスターの怒った顔めちゃくちゃ怖いですっ )

「シャーロット」
「は……い」

私はちょっとふらふらしながら、ベッドの上で姿勢を正して彼にキチンと訳を話した。
今の私なりに……ちゃんと初めから話をした。


「あの……れしゅね。おちゃかいが、出あいのばーで、それでダンしゅをおどりました」

「ダンス? 誰と」
「うーん……カインというひとれした。じょうずだって……いってく……れました」

「さっきも言ってたけどカインって誰? 何でソイツと踊ったの? 僕ともまだ踊った事ないのに」
( ああ、やっぱり嫌だったよね )

「ごめんなしゃい、はじめては……エシュターがよかった」
 私は社交界にもまだ出ていない。ダンスもお父様が生きていらっしゃった頃に教えてもらっただけ。最近はローズ様に教えて頂いていて、人前で踊ったのは今日が初めてだった。

「初めて? ダンスが?」
「うん」
「……そうか」

「エシュターは?……おどったことありましゅか?」
( 公爵令息だものね、とっくに社交界には出ているだろうし、 誰と踊ったのかなぁ……)

「えっ、あ……うん……それは」

エスターは気まずそうに私から目を逸らした。

「んんっ? もし……かして、マリアナおーじょしゃまなのねっ!」

「あの、それは仕方なくて」
「はじめて……も?」
「あ……うん練習意外は……そうなるね」

「いいな……マリアナおーじょしゃま……」

 マリアナ王女様は私の知らないエスターを知っている。
当たり前だけど、彼の幼い頃からを王女様は見て来ている。

私はまだ出会ってから三ヶ月にも満たなくて、知らない事が多いのは当たり前だけど……こんな時、やっぱり王女様が羨ましい。

「シャーロット……」

 何だか今度は悲しくなってきた。
さっきまで楽しかったのに……やっぱり酔っているのかな。


 エスターの過去にはいつもマリアナ王女様がいる。
それは仕方ない事。分かってる、分かってるけど、私は自分で思っているよりも心が狭い様だ。
今もまだ、王女様とエスターの過去が気になっている。

 それに私は、マリアナ王女様から多分嫌われている。
突然現れてエスターを取っちゃったから。

でも……だからって攫わせなくても、知らない人に悪戯させなくても……そこまでしたいほど私が憎いのだろうか。

私がもしこの下着を着けていなかったら、今頃どうなって……そう考えて、スッと血の気が引いた。
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