ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
…………本物に何もされてない?
ドレスを着ていた時には触れたのよ?
現にここまで運ばれている。
カイン様は何もしていないと言ったけれど、それが真実とはいえない。
私は上掛けを纏ってエスターから距離をとる。
「急にどうしたの、シャーロット」
エスターが急に離れた私に手を差し出すけれど、嫌だと首を振ってしまった。
ゆっくり、言葉がおかしくならない様に話をする。
「あの……ドレスき……るから……」
「手伝うよ」
エスターは優しく言ってくれた。
「だいじょぶ……ひ……とりでしま……す」
「でも」
「おねがい……すこ……しだけ……そとにでて、くらさ……い」
「どうして? シャーロット」
下を向き頼むとエスターは「僕はすぐそこに居るから」と部屋を出てくれた。
少しずつ酔いは醒めて来ている。
上掛けを取り隈なく体を見回した。
……大丈夫そうだ。
下着はちゃんと着ている、どこも緩んでいないし体にも何もない。
ドレスを脱がせた途端に触れなくなったとカイン様は言ったから……。
けれど赤いドレスを着ている状態では私に触れている。
現にここまで運ばれてベッドに寝かされていたのだ。
私は、何もしていないと言った彼の言葉を信じるしかない。
何一つ覚えていないから……。
ドレスをちゃんと着て、深呼吸をする。
迎えに来てくれたエスターにまだお礼も言っていない。その上部屋から追い出してしまった。
謝らなくっちゃ、それから来てくれてありがとうって言わないと……私、ダメだな。
ベッドから降りて下に並べて置いてあった靴を履いた。
少しふらつくが大丈夫。
エスターに声をかけようと、扉へと向かって……足が止まった。
外から、かわいい女性の声が聞こえてきたのだ。
マリアナ王女様の、鈴のような声が。
「エスター、ここにいたのね」
「……どうして僕がいると分かったのですか」
嬉しそうなマリアナ王女様とは対照的な冷たい声でエスターが話をする。
「あら、私があなたを分からない訳がないわ」
「こんな事はもう二度としないで頂きたい」
「こんな事? 彼女は楽しそうだったわよ? 殿方と音楽に合わせて踊って、その後はお酒を飲んで……しなだれかかっていたわ」
「それは彼女の意思ではないでしょう⁈ 」
「そうかしら? 私ならキチンとお断りするわ。彼女も満更でも無かったのではなくて?」
「彼女はきっと断り方が分からなかったんだ」
「あら、そんな人があなたの妻なんて務まるの?」
「彼女は『花』だ、僕は彼女しか認めない」
「そう……あら?」
「何だ?」
「エスターあなたの瞳、金色になっているわよ?」
( ……えっ⁈ )
「はっ?」
「うふふ、もしかして『花』は一人では無いのでは? 今までが、偶々近くに一人しか居なかったというだけではなくて?」
「何を言っているんだ」
エスターの声は動揺している様に聞こえた。
「だって獣人の中には何人も番がいる方達もいらっしゃるでしょう? 竜獣人もそうかも知れないわ、前例が無かっただけなのではないの?」
「違う、そんな事は無い!」
いつもは冷静な彼が声を荒げている。
……そういえば、さっき彼の瞳はずっと青いままだった。
でも、彼は瞳の色をコントロールできるようになっているし……
違う、今いるのはマリアナ王女様だけ、ならば王女様の狂言ということもあり得る。
だって『花』は触れ合えば直ぐに分かるのだから、エスターは今まで……何度も王女様と触れた事がある。
だから、違う……違うはず。
その時また別の声が聞こえてきた。
「まぁ、本当ですね。キレイな金色」
この抑揚の無い話し方は……メイド?
『花』と見つめ合うと金色に変化する竜獣人の瞳。
……もし王女様の言う通り、『花』が一人では無かったら……?
「そんな訳ないだろう!何を言っているんだ、マリアナ! いい加減にしろ!」
( ……マリアナ……また…… )
「うふ、エスターったらそんなに名前を呼ばなくてもよろしいのよ? #あの日__・__#もずっと私の名前を呼んでいたものね、寝室でも……」
「アレは!」
( ……あの日……? もしかして……あの『ごめん』はそういう事?)
ーーーーーー*
後ろからカタンと小さな音がして、振り向くとカイン様がそこに立っていた。
立ちすくむ私に向けて、彼は何も言わず手を差し伸べる。
どうしていいか分からない。
頭の中は『目の色』の事とエスターが『マリアナ』と呼ぶ声と『あの日』の事で一杯になっている。
私は、カイン様に差し出されたその手を無意識のうちに取ってしまった。
真紅のドレスをキチンと着たからなのか、エスターに触れてもらったからなのか、下着の防御魔法は止まっていた。
カイン様は私の手を引いて階段を降りる。
その先にある真っ暗な地下道を、まるで見えているかの様にスタスタと歩いて行く。
「シャーロットちゃん、どうした? 泣いてんの?」
「……ないてない」
「ねぇ、もう酔いは醒めたの?」
「よってない」
「……ふうん」
そこからカイン様は暫く黙ったまま、私を連れて真っ暗な道を何処かへと進んで行った。
ドレスを着ていた時には触れたのよ?
現にここまで運ばれている。
カイン様は何もしていないと言ったけれど、それが真実とはいえない。
私は上掛けを纏ってエスターから距離をとる。
「急にどうしたの、シャーロット」
エスターが急に離れた私に手を差し出すけれど、嫌だと首を振ってしまった。
ゆっくり、言葉がおかしくならない様に話をする。
「あの……ドレスき……るから……」
「手伝うよ」
エスターは優しく言ってくれた。
「だいじょぶ……ひ……とりでしま……す」
「でも」
「おねがい……すこ……しだけ……そとにでて、くらさ……い」
「どうして? シャーロット」
下を向き頼むとエスターは「僕はすぐそこに居るから」と部屋を出てくれた。
少しずつ酔いは醒めて来ている。
上掛けを取り隈なく体を見回した。
……大丈夫そうだ。
下着はちゃんと着ている、どこも緩んでいないし体にも何もない。
ドレスを脱がせた途端に触れなくなったとカイン様は言ったから……。
けれど赤いドレスを着ている状態では私に触れている。
現にここまで運ばれてベッドに寝かされていたのだ。
私は、何もしていないと言った彼の言葉を信じるしかない。
何一つ覚えていないから……。
ドレスをちゃんと着て、深呼吸をする。
迎えに来てくれたエスターにまだお礼も言っていない。その上部屋から追い出してしまった。
謝らなくっちゃ、それから来てくれてありがとうって言わないと……私、ダメだな。
ベッドから降りて下に並べて置いてあった靴を履いた。
少しふらつくが大丈夫。
エスターに声をかけようと、扉へと向かって……足が止まった。
外から、かわいい女性の声が聞こえてきたのだ。
マリアナ王女様の、鈴のような声が。
「エスター、ここにいたのね」
「……どうして僕がいると分かったのですか」
嬉しそうなマリアナ王女様とは対照的な冷たい声でエスターが話をする。
「あら、私があなたを分からない訳がないわ」
「こんな事はもう二度としないで頂きたい」
「こんな事? 彼女は楽しそうだったわよ? 殿方と音楽に合わせて踊って、その後はお酒を飲んで……しなだれかかっていたわ」
「それは彼女の意思ではないでしょう⁈ 」
「そうかしら? 私ならキチンとお断りするわ。彼女も満更でも無かったのではなくて?」
「彼女はきっと断り方が分からなかったんだ」
「あら、そんな人があなたの妻なんて務まるの?」
「彼女は『花』だ、僕は彼女しか認めない」
「そう……あら?」
「何だ?」
「エスターあなたの瞳、金色になっているわよ?」
( ……えっ⁈ )
「はっ?」
「うふふ、もしかして『花』は一人では無いのでは? 今までが、偶々近くに一人しか居なかったというだけではなくて?」
「何を言っているんだ」
エスターの声は動揺している様に聞こえた。
「だって獣人の中には何人も番がいる方達もいらっしゃるでしょう? 竜獣人もそうかも知れないわ、前例が無かっただけなのではないの?」
「違う、そんな事は無い!」
いつもは冷静な彼が声を荒げている。
……そういえば、さっき彼の瞳はずっと青いままだった。
でも、彼は瞳の色をコントロールできるようになっているし……
違う、今いるのはマリアナ王女様だけ、ならば王女様の狂言ということもあり得る。
だって『花』は触れ合えば直ぐに分かるのだから、エスターは今まで……何度も王女様と触れた事がある。
だから、違う……違うはず。
その時また別の声が聞こえてきた。
「まぁ、本当ですね。キレイな金色」
この抑揚の無い話し方は……メイド?
『花』と見つめ合うと金色に変化する竜獣人の瞳。
……もし王女様の言う通り、『花』が一人では無かったら……?
「そんな訳ないだろう!何を言っているんだ、マリアナ! いい加減にしろ!」
( ……マリアナ……また…… )
「うふ、エスターったらそんなに名前を呼ばなくてもよろしいのよ? #あの日__・__#もずっと私の名前を呼んでいたものね、寝室でも……」
「アレは!」
( ……あの日……? もしかして……あの『ごめん』はそういう事?)
ーーーーーー*
後ろからカタンと小さな音がして、振り向くとカイン様がそこに立っていた。
立ちすくむ私に向けて、彼は何も言わず手を差し伸べる。
どうしていいか分からない。
頭の中は『目の色』の事とエスターが『マリアナ』と呼ぶ声と『あの日』の事で一杯になっている。
私は、カイン様に差し出されたその手を無意識のうちに取ってしまった。
真紅のドレスをキチンと着たからなのか、エスターに触れてもらったからなのか、下着の防御魔法は止まっていた。
カイン様は私の手を引いて階段を降りる。
その先にある真っ暗な地下道を、まるで見えているかの様にスタスタと歩いて行く。
「シャーロットちゃん、どうした? 泣いてんの?」
「……ないてない」
「ねぇ、もう酔いは醒めたの?」
「よってない」
「……ふうん」
そこからカイン様は暫く黙ったまま、私を連れて真っ暗な道を何処かへと進んで行った。