ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

ちゃんと話を

「シャーロットちゃん、私とこのまま一緒に行くかい?」

 暗闇の中、カイン様は何気にそんな事を言った。

「えっ?」
「彼と一緒にいたく無いんでしょ?」
「違う……そんな事ない……」

 それは本当だ。
離れる……もう会えないと考えると、それだけで心臓が痛くなる。
今だって、凄く辛い……。
本当は一緒にいたい。
なのに……自分から離れてしまった。


「じゃあどうして私に付いて来たのかな?」

諭す様に聞いてくる、優しく穏やかな声のカイン様。

( どうして……? どうして……それは )


「……だってね……エスター、マリアナ王女様と踊ったの」

ポツリと胸のうちを打ち明ける。

「へ? 踊った?」
「王女様と手も繋いだし、一緒の馬車にも乗った……服に匂いが付くほど近くにいたこともある」
「あ、ああそうか……」
「寝室にも行ったって……エスターは、王女様のこと、マリアナって呼び捨てるの……目も金色になったって」

暗闇を歩きながら、私はカイン様に愚痴をこぼした。

「目? 金色って何?」
「変わるの、エスターの目……『花』を見ると金色に……うっ……私……」

 話していたら涙が溢れてきた。
咽び泣く私に気遣うように、手を引いて先を歩くカイン様の足が少し遅くなった。

「へぇ、目の色が変わるのか、それは聞いた事無かったなぁ」


「私は……初めてなのに、エスターは違うの……ダンス、ダンスはカイン様が初めてになっちゃったけど」
「ええっ! 初めてだったの⁈ デビュタントは?」
「出てない……まだデビュタントしてないの」
「……そうか」

 私は両親が亡くなってから、ずっとメイドをしていた。
こんな風にキレイなドレスを着る様になったのも最近のことだ。


 泣いている私を慰める様に、カイン様は優しく声をかける。

「あのねシャーロットちゃん、君とレイナルド公爵令息は会話が足りていないよ。若者にありがちだけどね」
「会話?」
「そ、『花』は魂で惹かれ合うんだろう? でもキチンと話すことも大切だよ。言葉には魂が宿るっていうだろう?」
「知らない」
「うーん、知らないかぁ。そうだな、体を重ねるだけじゃ伝わらない事もあるんだよって事さ。獣人は本能で相手を求める、会話もすっ飛ばして抱き合ってしまう。私もそうだけどね」

よし、着いた とカイン様が黒い扉を押し開けた。
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