ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
ここは城の西側になるんだ、と彼は教えてくれた。
綺麗に刈られた芝生の斜面が広がっている。その先には夕日を映しキラキラと輝く川が流れていた。

「わあ、こんな所あったなんて知らなかった」

お城に半年もいたのに、こんな場所が有るとは知らずにいた。

 カイン様は手を繋いだまま、もう片方の手で私の頭を親が子供をあやす様に優しく撫でる。
優しく微笑む彼の耳飾りの月が夕日を受けて光っていた。

「君は彼が好きでしょうがないんだよ。だから彼の全てを知りたいのさ、過去も何もかもね。それは悪いことじゃないよ、でもね全てを知る事だけが愛じゃない。シャーロットちゃんも彼に話していない事たくさんあるだろう?」

「はい……」
「君たちには時間がたっぷりある。ゆっくり知っていけばいいさ」

ふっとカイン様が目を細めた。

「君のドレスを脱がせようとした事は悪かった。でも本当に何もしていないから、出来なかったしね、それだけは信じて」

「はい」

よかった、と彼は大きく頷いた。

「それから、目の色とか名前呼びとかどうでもいいと思うよ? ダンスも誰と踊ったかなんて気にする事は無い、私なんて色んな人と色々な事をやって来たしね、最初が誰だったかなんて覚えてもいないよ」

大人の私から見れば君の悩みは大したことはない、と笑い飛ばすカイン様。

「寝室の事は……気になっている様だからちゃんと聞いてみなさい、多分王女様に無理矢理引き込まれただけだと思うけどね。彼女達ならやりかねないよ」

 チラリと視線を上に向け何かを見たカイン様は、急に顔を近づけて囁き声で話をした。

「シャーロットちゃん、彼の愛を信じなよ。私はこんなに身体中隙がないほど、印が付けられている女の子を見たのは初めてだよ」

「えっ!」

 カイン様はニヤッと笑うと私の指先にキスを落とした。
ハッと上空を見て慌てて「ヤバっ、じゃあね!」と言うと、斜面を凄い速さで走り去って行く。


すごい……脚速い……。

あっという間に見えなくなった。
さすが豹獣人だ……なんて呑気に思っていたら




後ろでシュッと音がして



「何してたの」

耳元で怖いくらい冷たい声が聞こえた。
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