ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
「結局、王女様のお陰で二人の間が深まっただけじゃないの?」

「ゲホゲホッ」
うっ、飲んでいた紅茶がおかしなところへ入ってしまった。

 私達がレイナルド公爵邸に帰った二日後、ソフィアが訪ねて来た。
彼女は来月、結婚式を挙げる。レオン様はせっかくだから盛大に行おうと仰ったらしいが奥様のお一人が懐妊された為、ソフィアが身内だけで行いたいと話をしたらしい。
その招待状を持って来てくれたのだ。

「心配して損したわ……ふふ、とにかく無事で良かったわね。……それにしても」

ソフィアはジロジロと私を見るとニヤッと笑う。

 私の横にはエスターがピッタリと寄り添い、涼しい顔をして紅茶を飲んでいる。
その彼の左腕はずっと私の腰に添えられていた。

「エスター様は本当に、マリアナ王女様がこの国から出ていかれるまで仕事に行かれないんですか?」

「そうだ」

当然だと言わんばかりに冷然と言うエスター。
ソフィアはぷうっと頬を膨らませ私を見る。

「ちょっと、この人私に対する態度が酷くない⁈ 」

「……ははは」

 エスターは以前ソフィアが私を罵っていた事が気に入らない。しかし、レオン様の妻であり、私が攫われた時に知らせてくれた事もあって渋々公爵邸に来ることを認めていた。


「エスター……」
(もう少し優しくしてあげて……)

 彼に目で訴えてみた。私達は魂で惹かれあっているのだから、心が通じてもおかしくはない……と思う。

ぐっと腰が引き寄せられて、顎を持ち上げられた。
青い目がフッと細められ、顔が近くなる。

「何? 僕に甘えてるの?」
「ちっ、違うっ! 違うのっ、エスターっ」
「そこにいる人の事なんて気にしなくてもいいよ」


「……気にしてよ」
呆れ顔のソフィアが低い声で呟いた。

「ごっ、ごめんなさいソフィア。それで……えっと他は何の話だったかしら」


ソフィアは紅茶をコクリと飲み、カップを戻す。

「もうっ、ドレスの事よウエディングドレス。お母様がね、注文していたらしいんだけど……あなたのドレスのデザインがまた違っていたらしいのよ。どうせその隣にいらっしゃる騎士様が関わっているのだと思うんだけどね」

「そうなの?」

「僕の大切な人に着せるんだから僕がデザインしてもいいと思うけど? ダメじゃないよねシャーロット」

 ワザと耳に口を寄せ囁くエスター。
塔から帰って来てから普段の距離が近くなった。離れるたびに捕らわれてしまう私が心配らしいのだけど……。

「は、はい……嬉しいです」

 そんな私達のやり取りを眺めるソフィアは、甘過ぎるわっ、と言いながら、レイナルド公爵邸のシェフによる絶品ケーキを一口食べる。
「おいしい……レオンとお姉様方にも食べさせてあげたいくらい」

 食べ終えたソフィアは、なんだか恥ずかしそうに私に訊ねた。

「……ねぇ、シャーロットは何処で何と言ってもらったの?」

「え? 何を?」

「やだ、『結婚しよう』って言ってもらったでしょ? 私はレオンから一昨日の夜に満天の星空の下で言ってもらったの……彼がちゃんと言っていなかったからって、私の前にひざまづいてね『一生大切にする、私と結婚してください』って、すごく素敵だったのっ!」

 ポッと赤くなり身悶えするソフィア。

「……それで、シャーロットは?」

『結婚しよう』?

たしか……

「エスターは叔父様に婚姻を申し込んでくれたけど……」

 それではダメなのかな?とソフィアに訊ねる。
何故か横にいるエスターがヒュッと息を呑み、腰に添えられた手が離れた。

「えっ? お父様に言っただけなの ⁈ 」
「ええ、言ってくれたの……それだけじゃダメ?」

「ダメよっ、やだ」

ソフィアはエスターを凝視する。

「ちゃんと言ってあげて下さいよ、エスター様」
「あ……ああ」
バツの悪そうな顔でエスターが返事をした。

ふふ、と笑ったソフィアは、また紅茶を飲む


「それからマリアナ王女様の事だけれど、結婚が決まったそうよ。良かったわね、これであなたも一安心よ」


「結婚? 本当に?」

あんなにエスターだけを想っていた方が……

本当?


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