ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
チャプン……チャプン……チャプチャプ

バシャッ

「ああ……」

 レイナルド公爵邸の浴室では、一人でお湯に浸かりながらエスターが思い悩んでいた。
いつもならシャーロットと一緒に入るのだが、レオンの妻、ソフィアに言われたあの言葉が気になり、たまには別々に入ろうと自分から言ったのだ。

『結婚しよう』その言葉。

以前オスカーにも言われていた。
〈 ちゃんと伝えているのか?〉



僕は……言ったつもりだったが、アレではダメだったのか……


あの状況で言うべきではないのか……



いや、シャーロットが覚えていないのなら言ったことにはならない。


ちょうどいい、やり直そう。

レオンより……せめて同じぐらい思い出に残る様なプロポーズにする。


 そう心に決めたエスターは浴室を出た。
濡れた髪を両手で掻き上げ天を仰ぐ。
服の上からでは分からない、彼のしなやかで鍛え上げられた体の上を水滴が玉の様に転がって流れていく。


「エスター!」
まだ体を拭いている時にオスカーが突然入ってきた。

こんな所まで入ってくるとは、かなり慌てている様だ。

「オスカー帰ってたんだ」
変わらず冷静にエスターは話をした。

「今すぐ俺と来てくれ!」

「なぜ? 僕は今、シャーロットから離れられない」

「彼女の事なら大丈夫だ。マリアナ王女は彼方に行くまで城に閉じ込めてある。それより急に出て来た魔獣の数がヤバいんだよ、父さんはガイア公爵の方へ応援に向かったからお前は俺と来い! これは隊長命令だ!」

珍しく焦っているオスカーに、これまでとは何か違うと感じたエスターは頷いた。

「……わかった、シャーロットに言って来るから少しだけ待ってて」


急いで隊服に着替えて彼女の元へと向かう。


……帰ってからちゃんと言おう……





ーーーーーー*




 お風呂から部屋に戻ってきたエスターは、何故か隊服を着て剣帯をしていた。

「エスター、何処かへ行くの?」
「うん、ちょっと仕事に行ってくる」
エスターは私の頬にそっと手を添えると、スッと親指で頬を撫でて優しい笑顔をくれた。

「帰ってから、ちゃんと言うから待ってて」
「えっ」

頬に軽くキスを残してエスターはすぐに出て行ってしまった。



 月が照らす道を、数頭の馬に跨る騎士達が走り去っていく。

それを私は二階の客間の窓から眺めていた。

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