ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
エスターが魔獣討伐へと出てから二十日。
ヴィクトール様はあれから三回程帰って来られた。
エスター達のいる場所よりも近く、あちらは当主が二人だから帰れるのだと、エスターは『花』と巡り会い力も増しているがオスカー様はまだだ。
そのせいもあり帰れないのだろうとローズ様が話された。

 魔獣が凶暴さを増す夜は、主に獣人騎士達が討伐をしている。中でも無尽蔵の体力を持つ竜獣人のオスカー様とエスターは昼夜問わず魔獣を駆逐しているのだという。
執事のバロンさんからの報告で知り得るのはこれくらいの事だった。

少しは休んでいるのかな……いくら体力があるとはいえやはり心配だ。

「大丈夫よあの子たちは。一時間も眠れば全回復よ? シャーロットちゃんも知っているでしょう」
「はい」


 この間、竜獣人の事を学んだ時にそう聞いたが、何とも信じられない。
(……いや、身をもって分かってはいるけれど……)

ただ、他の獣人を凌駕するほどの力を持つ傍ら、子供が出来にくいのだということも知った。
だからなのか、ヴィクトール様もガイア公爵閣下も兄弟はいない。
そして竜獣人はなぜか男子しか生まれないらしい。
それに授かるまでも時間がかかり、ヴィクトール様とローズ様のように出会ってから五年で第一子を授かるのはとても早い方なのだと言われた。

 私は毎日いろいろな事を学びながら、ダーナさんにお菓子作りを教わる。ローズ様やカミラさんから、エスターの子供の頃の話を聞いたりしながら一日を過ごしていく。

エスターの部屋はまだ修理されていない為、夜は一人、客間で過ごしていた。
その窓から見えるあの日丸かった月は、すっかり欠けてしまっている。


「エスター……」

 夜空に向かいそう呟いても、いつものように後ろから抱きしめる優しい腕はない。

「会いたい……」

いつのまに、私はこんなに寂しがり屋になったんだろう。
つい、この前まで一人でも平気だったのに、一度二人になってしまったら途端に一人でいるのが寂しくなってしまった。



彼は後どれぐらいで帰ってくるだろう……


エスター

会いたい


一目でいいからあなたに会いたい……

< 76 / 145 >

この作品をシェア

pagetop