ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
「絶対おかしいわ、カミラもそう思うでしょう?」
「はい、ローズ様」

 レイナルド公爵家の執務室では今回の件で疑念を抱いているローズとカミラ、それに執事のバロンが集まり話をしていた。


「あのエスターが何の連絡もして来ないなんてある? いくら会いに来れないとしても、シャーロットちゃんに手紙の一通も寄越さないとはどう言う事? まさか忘れているとは言わないでしょうね⁉︎ 」

 ローズは珍しく怒っていた。
魔獣討伐に向かったエスターが何の連絡も寄越して来ないからだ。それに最近のシャーロットの落ち込む姿は見ているこちらが耐え難いほどだった。

「バロンさん、何か分かりましたか?」

カミラがバロンに尋ねる。
二人も今回はおかしいと感じていた。いつもなら一週間家を離れるだけでも連絡か手紙が届けられているのだ。
しかしもう二十日経つが、一度も連絡も無ければ手紙も届けられない。

「調べて分かった事は、他の騎士の家には手紙や連絡が届いているということです」

「やっぱり……」

「届けられていないのは此処だけです。連絡をする騎士が男性なのかと思いましたが、どうやら女性騎士らしいのです。……本来なら来るはずですが」

それを聞いたローズはハッとする。

「ちょっとそれって、キャロンじゃないでしょうね⁈ 」
「その通りです」
「なぜエスターはその娘に頼んでいるの? 分かっていないの?」
「エスター様は元々、女性に関心が御座いませんので、彼女の気持ちは分かっていないのではないでしょうか」


ローズは頭を抱えた。

ああ……頭が痛い。

一難去ってまた一難?
どうして私の息子達、特にエスターは癖の強い女性に好かれるのよ
あんなに無愛想なのに、冷たい感じがいい訳?

それとも見た目? 
見た目ならオスカーも同じなのに
それに、ヴィクトールの方が何倍も素敵なのに……

分からないわ……。


「とにかくシャーロットちゃんをこれ以上不安にさせないようにしなくては!分かったわね」

「はい、かしこまりました」




ーーーーーー*





王国の南側、国境近くの森林にエスター達はいた。

 着いてすぐに近くにあった村に飛び回っていた小さな魔獣を討伐し、今はちょこまかと地上を動き回る灰色でつるりとした体の魔獣を、二十人程の騎士達が昼夜交代しながら駆逐していた。
……が、あと少しという所で魔獣はまた増える。


……帰れない……

「オスカー、一日で必ず帰って来るからシャーロットの所へ行かせて」

ダンッ!

「無理だろう⁈ 行って帰るだけでお前でも二日はかかる。それに手紙は書いたんだろう? 連絡隊も遣しているし、もう少しで終わるから此処にいろ!」

バシュッ!

「手紙は書いたけど返事がないんだ」

ダンッ!ダンッ!ダダダンッ‼︎
ゴオオッ……

「おいっ、エスター剣で突くなよ!地面が揺れるだろうっ!」


 エスターはイライラしていた。

 シャーロットに、もう二十日も会えていない。
既に二回手紙を出しているが返事がない。

 届けてくれているのは二つ歳上の女性騎士、猫獣人のキャロンだ。
『男』をシャーロットに会わせる訳にはいかない、それにキャロンは入隊時からよく知っていて信用できる。
だから頼んでいるのだが……


「……どうだった?」
 
 先程王都から帰ってきたばかりで、休憩用のテントに一人でいたキャロンに尋ねた。
テントの幕は開けてあり、外から中の様子が見える様にしておく。仕事中とはいえ若い男女が二人きりになる訳にはいかない。


「ええ、前回と同じよ。手紙を受け取ると何も言わずに部屋へと戻られたわ、返事はもらえなかった」
「そう……母上からは?」
「こちらの事は心配しないで、とだけ」

キャロンは大きな黄色い目をクリクリと輝かせエスターを見つめる。
彼女には獣の特性が少しだけ出ており、体に黒毛のフワフワした長い尻尾がついていた。


「はあ……どうして……」
 
 最初の手紙は着いて三日後に出した。その時、届けてくれたキャロンに彼女の様子を尋ねると、手紙を受け取るとすぐに部屋へ戻ったから分からないが会った時は楽しそうで、取り立てて言う事もないと伝えられた。その次の時も同じだった。

シャーロットは一人でも平気なのか……僕だけが会いたいと焦がれているのか……

 彼女は文字が読めない訳でも書けない訳でもない。
だから前に書いた手紙を読んでいるなら、今回は返事をくれるはずなんだ……なのにくれなかった。
僕は何か変なことを書いたのか⁈


それとも、まさか僕のいない間に……誰か他のヤツが……

いや、そんな事はないはずだ。
印はしっかり付けてある。
僕より強いヤツでなければ、手を出せるはずはない。


「エスター副長の婚約者さんて意外と冷たい方なのね」
「え、どうして?」
「だって、エスター副長が一生懸命仕事しているのに心配もしていないし、手紙に返事の一つもくれないなんて……私ならそんな事しないのに」

エスターは、いつの間にか近くにいたキャロンに尻尾でスルリと足を撫でられた。

「……キャロン、あんまり近づくな」

 そう冷たい視線を向けるエスターに対し、キャロンは蠱惑的な目をしてさらに距離を詰める。
いつのまにか開けていたテントの幕が下されていた。

「ねぇエスター副長、こんな所にずっといると人肌が恋しくならない?」

「ならない」

 そう言ってすぐに出て行こうとしたエスターの腕はキャロンに引かれ、簡易ベッドの上に押し倒された。
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