ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

足りないんだけど

昨日カルロに渡された指輪の事を、部屋の掃除をしながらカミラさんに話た。
渡された指輪を見たカミラさんは「これは……」と小さく呟いてそっと袋に戻した。

「もしかして、その方はシャーロット様を好きでいらっしゃったのでは?」
「そんな⁈ 男爵家では話をした事も無いですし、それに私はいつも、いない者の様に扱われていたんです。あり得ない……」

顔だって、あんなにしっかりと見たのは昨日が初めてだ。

「そうですか……。とにかく、この指輪は明後日ヴィクトール様がお帰りになってから、キチンとお話になられて、それからお返しする事にいたしましょう」

「やはりヴィクトール様に話さなければいけませんよね」
「そうですね、話辛いですか?」
「なんとなく……」
「エスター様とヴィクトール様はよく似ていらっしゃいますからね。でもエスター様がこの事を知ったら相手の方に激怒されるかも知れませんね、だったらヴィクトール様にお伝えし、返す方が良いと思いますよ 」
「そうでしょうか?」
「ええ、きっと」

 こんな事なら、昨日カルロから小袋を手渡された後すぐに、ヴィクトール様に言えばよかった。

「とにかく後の事はヴィクトール様が帰られてから、それまではそのままここに仕舞っておきますね」

 カミラさんは机の引き出しに指輪を仕舞おうとし、手を止めた。

「あら、コレは?」
「あ! それは……エスターに……」

 彼に宛てて書こうとして、上手く書けずにそのままにしていた手紙をその引き出しに入れていた。
白い便箋に書いたほんの数行の手紙。何度も書いては消して、もう捨ててしまおうかと思ったが、出来ずにそのままにしていたのだ。

「これを見たらエスター様は、お喜びになられると思いますよ」

カミラさんは優しく微笑むと、手紙と指輪を一緒にして引出しの中へ丁寧に仕舞った。
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