不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました
一章 悪役令嬢は考える
「あそこにいる庶民を追い払ってちょうだい、不快だわ」

これ見よがしなため息とともにふいに聞こえてきた声に、ソフィア・グラストーナは顔を上げた。その拍子に、くしで()かしただけの緩く波打つ金髪がふわりと揺れる。

エメラルド色の大きな瞳を読んでいた本から上げて、声がしたあたりを振り返ったソフィアは、そこに立っている数か月違いの異母姉の姿を見つけて、聞こえなかったふりをすればよかったと後悔した。

グラストーナ城へ連れてこられて三か月が過ぎた、夏の早朝。

気分転換に城の前庭にある古くて小さな四阿( あずまや)で本を読んでいたときのことである。

この城に来たころには明るい赤紫色の花をつけていた四阿のそばのライラックの木は、すっかり青々とした葉を生い茂らせていて、四阿の中に影を落とす。

城の前庭の端にある古い四阿にはあまり人が近寄らないから、ライラックの木の影の効果もあり、ソフィアはひとりになりたいときに利用していたのだが、今日に限って、城の中で一、二を争うほど会いたくない人物に会ってしまった。

夏用の(おうぎ)を広げて顔を半分隠し、わざとらしく視線を明後日の方向に向けて立っていたのは、三人の侍女を連れた異母姉、キーラ・グラストーナ。

背中までのまっすぐな金色の髪にサファイア色の瞳の、グラストーナ国の第一王女である。

「まったく、どうしてわたくしの城の中を、( いや)しい庶民が我が物顔で歩き回っているのかしら」

つぶやきとは程遠い大声だ。わざとソフィアの耳に入るように言っているのは明白だった。

(こんなところ、来たくて来たんじゃないわよ)
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