不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました
ソフィアは内心で毒づくと、面倒事に巻き込まれる前に立ち去ることにした。

キーラに関わるとろくなことがない。グラストーナ城へ連れてこられて三か月、ソフィアは嫌というほど身に染みていた。

読みかけの本をぱたんと閉じると、ソフィアは無言で立ち上がる。しかし、立ち去ろうとしたソフィアを、キーラの三人の侍女がぐるりと取り囲んだ。

どういうつもりだろうか。ソフィアは眉を寄せた。

卑しい庶民だと蔑むほどに嫌っているソフィアの顔など見たくないだろうから立ち去ってやろうというのに、わざわざソフィアの進行方向を( ふさ)ぎにかかる意味がわからない。

目が合えば、キーラは扇の下で薄く笑った。

「あなたが座ったせいでベンチが汚れちゃったわ。()(れい)に掃除しなさい」

キーラではなく、侍女のひとりが言った。

言っておくが、ソフィアはベンチの上に土足で上がったわけでも、飲食をして食べ物や飲み物をこぼしたわけでもない。ただ座って本を読んでいただけだ。ベンチのどこが汚れているというのだろう。

(お嬢様たちからすれば、庶民が触れたものは全部汚れたものということになるのかしらね)

王族の侍女は基本的に貴族令嬢が務める。貴族令嬢の侍女たちからすれば、市井育ちで、キーラが〝庶民〟と蔑むソフィアは王女の枠に入らないらしい。

王がソフィアに王女を名乗らせている以上、ソフィアは彼女たちより身分が上なのだが、この城に出入りしている貴族の大半はソフィアのことを〝卑しい庶民〟だと思っているらしいので文句をつけたところで仕方がない。

(王女になんて、なりたくてなったわけじゃないわよ)
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