不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました
そう、声に出して言えればどんなにいいだろうか。誰が好き好んで、毎日ストレスで胃に穴が開きそうな環境に身を置くというのだ。

ソフィアはちらりとベンチの上に視線を落とした。

「どこが汚れているのかしら」

「あら、庶民は目も悪いみたいね」

「そこが汚れて見えるなら、目が悪いのはあなたの方だと思うわよ。典医にでも見てもらえばどうかしら」

嫌みを言われ、進行方向も塞がれて腹が立ったソフィアがそう言い返せば、侍女のひとりがカッと頬を染めた。

「なんですって?」

「庶民のくせに!」

しまったと思ったときは遅かった。

キーラがいるから気も大きくなっているのだろう、侍女の間を通り抜けようとしたソフィアの髪を侍女のひとりが( つか)むと、力いっぱい引っ張った。

三か月経ったとはいえ、まだヒールのある靴に慣れていないソフィアは、後ろに髪を引っ張られた勢いで体勢を崩し、たたらを踏んだ。そして、

――ゴンッ。

倒れた先にあったベンチの角で後頭部を強打したソフィアは――

「ソフィア様!!」

こっそり部屋を抜け出したソフィアを探しに来たらしい護衛のオリオンがソフィアの名前を呼びながら駆けてくるのを視界の端に捕えながら、絶叫する。

「うそでしょーーーー!?」

そして、そのまま気を失った。

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