不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました
* * *


「信じられない!! わたし、ソフィアになってる!!」

半日意識を失って目を覚ましたソフィアの第一声はこれだった。

気を失っていたはずなのに、突如としてくわっと目を見開いて飛び起き、意味不明な叫びをあげたソフィアに、ベッドサイドの椅子に座ってソフィアの脈を測っていた典医は目を見開いて固まった。

典医の後ろに控えていた、セミロングの黒髪を首の後ろでひとつに束ねた、髪と同じ黒い瞳の女性護衛官オリオンもぽかんとしている。

(うそ)だ嘘だ嘘だああああああ! ソフィアになってる! ソフィアになってるぅううううううう!」

「ソ、ソ、ソフィア様、どうされたのですか!」

頭を抱えて絶叫するソフィアに、打ち所が悪くて錯乱したのかと、典医がうろたえはじめた。

ソフィアは王妃の娘ではないとはいえ、国王が認めたこの国の第二王女だ。取り返しのつかない後遺症でも残れば、典医の責任にされかねない。

しかし己の奇行のせいで典医が青くなっているとは気づかないソフィアは、頭を抱えたままごろんごろんとベッドの上をのたうった。

(あり得ないあり得ないあり得ないよぅ! ソフィアだ、ソフィアだ、ソフィアだあああああ!)

「ソフィア様!?」

青い顔の典医は涙目になり、大きな医療(かばん)の中から震える手で小瓶を取り出した。

「ち、ち、鎮静剤でございます! どうかソフィア様これを飲んで、落ち着い――」

「あー、先生も落ち着いて」

いまだかつてこんなに変な患者は見たことがないのだろう。動転する典医の肩をオリオンがぽんと(たた)いて、鎮静剤を取り上げた。この鎮静剤は注射で使うもので、服用するものでは断じてない。

「たぶんですけど、これ打っても治らないと思いますよ」

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