アンドロイド・ニューワールドⅡ
「ロールケーキだけでもギリギリですから、他の料理まで間に合わなかったら、収拾が付きません。手伝いましょう」

と、私は言いました。

「他の3品を早めに作ってしまえば、ロールケーキを手伝ってもらえます。確かに担当者は決めていますが、今の私達は手が空いているのですから、臨機応変に動きましょう」

と、私は続けて言いました。

時間を無駄にするよりかは、その方が良いでしょう。

すると。

「…ちっ。なんか電波ちゃん、仕切り出してうざいよね。リーダーだからって調子乗ってさぁ…」

と、湯野さんは、小声で呟きました。

人間だったら多分聞こえない程度の声量ですが、私は『新世界アンドロイド』なので、充分よく聞こえています。

何やら、私に対する陰口を叩いていましたね。

面と向かって仰ってくれて結構ですよ。

何故人間は人の悪口を言うとき、わざわざ声をひそめるのでしょう。

小声で言わなければならないほど疚しいことがあるなら、そもそも悪口など言わなければ良いものを。

それはともかく。

別の3品を作る、お手伝いをしましょう。

そういえば、奏さんともう一人の女子生徒が作るポタージュスープも、難解なレシピで作ると言っていましたね。

だったら、ポタージュスープのお手伝いを…と。

思っていた、そのとき。

「ちょっと!邪魔しないでよ」

「邪魔なのはお前だろ?」

と、同じグループのメンバーが、言い争う声が聞こえました。

何でしょう。喧嘩でしょうか。

私の第4グループは、どうにも喧嘩が多くて困ります。

血気盛んな若者が、揃い過ぎているのかもしれません。

「どうしたのですか?」

と、私はコンロの周りで揉めている二人に、声をかけました。

一方は、ステーキ担当の女子生徒。

もう一方は、鮭茶漬け担当の男子生徒です。

この二人が、互いにフライパンを片手に言い争っています。

まさか、フライパンを武器に使っているのかと思いましたが。

そういうことではないようで。

「こいつがさっきから、長々とコンロ使ってるんだよ。いい加減退けよ」

と、鮭茶漬け担当の男子生徒は、イライラした様子で言いました。

「こいつがいつまでも、コンロを占領して動かないから、俺が使えないんだよ」

と、彼は続けて言いました。

彼の持っているフライパンの上には、生鮭の切り身が乗っていました。

あれは鮭茶漬けの材料ですね。

鮭茶漬けに入れる鮭を、加熱しようとしているのに。

二口あるコンロは、二つとも埋まったままです。

オーブンと同じですね。焼き待ち状態です。

そして、何故コンロが二つ共占領されているのかと言うと…。

「こっちはステーキ焼いてるんだから、ちょっと待ってよ」

と、ステーキ担当の女子生徒は言いました。

彼女が、コンロを二つ占領しているのです。

二つのフライパンの上には、それぞれ、鶏のもも肉と、胸肉が乗っていて、ジュージュー音を立てていました。

まだ赤みが指しているので、焼き上がるまでには時間がかかりそうです。

「大体、私が先に使い始めたんだから、私の方が優先でしょ?」

「お前は焼くだけで済むのかもしれないけど、俺はまだこの後やることがあるんだよ。早く退かせよ」

「ふん。たかがお茶漬けに、何の工程があるって言うの?偉そうにしないでくれる」

「は?ステーキだって、ただ焼くだけで何もしてないだろ。それなのに、長々と占領しやがって。何で先に済ませておかないんだよ」

「それはこっちの台詞よ。ただ焼くだけだって、下拵えとか、味付けとか、色々あるの。何も知らない奴は黙ってなさいよ」

「何だと?お前の要領が悪いから、こんなことになってんだろ!」

と、二人の喧嘩はヒートアップしています。

この二人の熱だけで、鮭くらいは焼けそうですね。

なんて、冗談を考えている場合ではありません。

リーダーとして、グループ内の仲間割れは防がなくては。
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