アンドロイド・ニューワールドⅡ
これ以上は、不毛な争いになるだけです。

それよりは、手を動かした方が良いでしょう。

私は、冷めて固まったボウルの中のじゃがいもを、全力でマッシュしました。

人間の力では、およそ潰れなかったであろう固さですが。

『新世界アンドロイド』である私の手にかかれば、豆腐のごとき柔らかさです。

何だか歪んだ音が聞こえた気もしますが、きっと気のせいでしょう。

温め直しても良いのですが、それでは時間が足りないので。

「はい、潰れたので火にかけましょう。あとは私がやるので、あなたは下がっていて良いですよ」

と、私はポタージュ担当の女子生徒に言いました。

「え、な、何で…」

「何でって、あなたはその方が良いのでしょう?もし暇なら、ロールケーキの方を手伝っててください」

と、私は言いました。

まぁ、嫌ならやらなくても結構です。

「瑠璃華さん…!でも、瑠璃華さんの担当は…」

と、奏さんは言いました。

はい。私の担当ではないですね。

しかし、心配は要りません。

「大丈夫です、奏さん。こんなこともあろうかと私は昨日の夜、今日作る4品全てを、一通り作って予習してきましたから」

「え…!そ、そんなことしてたの?」

と、奏さんは驚きを隠さずに言いました。

実は、そのようなことをしていました。

昨日、奏さんがとても心配していたようだったので。

いざというときの為に、一晩返上して予習してきたのです。

案の定、予習しておいて正解でしたね。

このような事態になるとは、さすがの私も予想していませんでした。

何でも、備えあれば憂いなし、ということです。

「あの…瑠璃華さん、これ、裏ごし器…」

と、奏さんは言いながら、横から裏ごし器を渡してくれました。

更に。

「その…。俺に出来ることがあったら、何でも手伝うよ」

と、奏さんは申し出てくれました。

有り難いですね。

面倒な注文をつけながらも、実際動くときになると、面倒臭がってろくに動かない人達にも、見習って欲しいものです。

「ありがとうございます、奏さん」

と、私は言いました。
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