アンドロイド・ニューワールドⅡ
奏さんの目は、私のお弁当箱の中身を凝視していました。

あまりに立派なお弁当なので、感心して声が出ないのかもしれません。

無言の褒め言葉、ありがとうございます。

やはり、料理が上手になっていて良かったですね。

すると。

「…あのさ、瑠璃華さん」

と、奏さんはようやく、口を開きました。

「はい、何でしょう」

「さっき瑠璃華さん…日の丸弁当じゃない、って言ったよね」

「はい、言いましたね」

「…で、これは何?」

と、奏さんは私のお弁当箱を指差しました。

これは何、と言われましても…。

「お弁当ですね」
 
「日の丸弁当じゃない?」 

「日の丸ではありません。梅干しに加えて、もみ海苔と、たくあんまで乗ってますから」

と、私は答えました。

私のお弁当箱には、一面の白米と。

その上に梅干しと、もみ海苔と、たくあんが乗っています。

豪華三種盛りですね。

これは、完全に日の丸弁当とは一線を画すお弁当です。

「確かに日の丸ではないけど…。俺が見たのは、限りなく日の丸弁当に近い何か…いや。白米の白と、梅干しの赤、もみ海苔の黒、たくあんの黄色で、何処かの国の国旗みたいだ…」

と、奏さんは呟きました。

カラフルで素晴らしい、という意味の褒め言葉でしょうね。

ありがとうございます。

やはり、お弁当は彩りが大切だと言いますしね。

「しかも奏さん、これはただのお弁当ではありません」

「え、何…?国旗弁当じゃないの?」

「はい。何故なら…」

と、私は言いながら、鞄の中から魔法瓶を取り出しました。

魔法瓶の蓋を開け、中の液体を、バシャッ、とお弁当箱に注ぎました。

「お茶漬けですから。これはお茶漬け弁当です」

「…あぁ…そっか、そういうオチか…」

と、奏さんは遠い目で呟きました。

そういうオチ、とはどういう意味でしょうか。

「豪華三種盛り、お茶漬け弁当です。素晴らしいでしょう?」

「そうだね…。瑠璃華さんの、そういう…そういう何事にも堂々としているところは、凄く良い長所だと思うよ」

「ありがとうございます」

と、私はお礼を言いました。

「…でもさ、瑠璃華さん」

「はい、何でしょう」

と、私はお茶漬け弁当を食べながら言いました。

お箸で食べるのは難しいですね。

「お弁当って…決してそういうものではないと思う」

と、奏さんは真顔で言いました。
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