アンドロイド・ニューワールドⅡ
今日は、奏さんの顔色が百面相ですね。

大丈夫でしょうか。

「え、ま、待って」

「はい、待ちます。何秒、いえ何分待てば良いでしょうか」

「ほ、本当に足音が聞こえたの?呻き声と?本当に?」

と、奏さんは焦ったように聞きました。

大丈夫でしょうか。

「落ち着いてください、奏さん。慌てても良いことは何もありません。久露花局長も以前、チョコレートを床に落として慌てて、ついでに筆記用具まで床にぶちまけていましたから。慌てるのは良くありません」

「むしろ、瑠璃華さんは落ち着き過ぎだよ!本当にそんな怪奇現象に遭ったの!?」

と、奏さんは青ざめて尋ねました。

あれは、怪奇現象のうちに入るのでしょうか。

「はい。何処からかペタペタと音がして、『うぉぁぁぁ…』とかいう苦悶の呻きが聞こえてきました。もしかしたら、隣家の物音が聞こえてきただけかもしれませんが」

「…」

と、奏さんは無言で固まっていました。

「よ、よく…怖くなかったね…?」

「私には感情がないので、怖いという気持ちはありません。それに、もしぬいぐるみが暴れていたのだとしても、奏さんですから。特に脅威はありません」

「瑠璃華さんの、鋼の心臓が羨ましいよ…」

と、奏さんは言いました。

私は『新世界アンドロイド』ですので、鋼も何も、心臓はありません。

「私が行ったのは初心者のひとりかくれんぼですから、さほどの脅威はありません」

「足音と呻き声は、充分な脅威だと思うけどね」

「それに、こうして無事に朝を迎えられています。結果オーライですね」

と、私は言いました。

世の中、塞翁が馬と言いますし。

結局私の身には、危険なことは何もなかったのですから、それで良しとしましょう。

砂糖水でも、何とか乗り越えられるものですね。

「なんて危険な橋を渡ってるんだ…。瑠璃華さん、もうひとりかくれんぼはやっちゃ駄目だよ」

と、奏さんは強く、念押しするように言いました。

「え?ですが、今晩は更に進化して、ひとりかくれんぼ中級者編を行おうと…」

「なんて恐ろしいことを企んでるんだ。駄目、絶対駄目、危ないから。やめよう」

と、奏さんは何度も言いました。

ここまで止められてしまうとは。

では、ひとりかくれんぼはやめておいた方が良いでしょうか。

「分かりました。もうやめておきます…」

「あぁ、瑠璃華さんが残念そうな顔してる…。でも駄目。ひとりかくれんぼは危険過ぎるからやめよう」

「はい」

と、私は答えました。

それから私には感情がないので、残念という気持ちはありません。

少しばかり、名残惜しいだけです。
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