アンドロイド・ニューワールドⅡ
…湯野さんが立ち去ったところで。

「…はぁ…」

と、奏さんは、心底うんざりしたような溜め息をつきました。

大丈夫でしょうか。

「大丈夫ですか、奏さん」

「…俺は大丈夫だけど…。でも、瑠璃華さんは、多分大丈夫じゃないよ…」

と、奏さんは言いました。

私が大丈夫ではない?

それはどういう意味でしょう。

「私は、先程の湯野さんと奏さんの会話を、理解出来ていません」

と、私は言いました。

「一体何のことなのか、奏さん、ご説明頂けますか?確か、会計役がどうの、と話していましたが」

と、私は聞きました。

すると。

「うん。文化祭の役割決めのことだよ…。湯野さんは俺と瑠璃華さんに、会計役をやれって言ってきたんだ」

と、奏さんは説明してくれました。

やはり、そうだったのですね。

私と奏さんで、会計ですか。

何だか、私の希望も奏さんの希望も、全く考慮に入れられず。

一方的に、「会計やれ」と決められてしまいましたね。

運動会の、種目決めをしたときと同じです。

「奏さんは、別のことをやりたかったのですか?」

「…いいや」

「それでは、何が問題なのですか?」

と、私は聞きました。

「俺は…入学してからずっと、文化祭には出てるんだ。運動会は、出場しないようにって言われてたけど…。文化祭には出てる」

と、奏さんは答えました。

そうなのですか。

やはり屋内のイベントなら、奏さんも総スカンを食らうことはないのですね。

それを聞いて安心しました。

しかし、この奏さんの浮かない顔は、どういうことでしょう。

「でも…俺は毎年、会計なんだ。最初の年に会計をやることになって、それから毎年ずっと…」

と、奏さんは言いました。

毎年会計、ですか?

それは驚きました。

「最初の年に偶然会計をやって、それから毎年会計を任されるとは…。奏さん、さてはとても信頼されているのですね」

と、私は言いました。

「え?何で?」

「だって、会計とはお金の管理を任される仕事です。非常に重要な役割ですし、信頼の出来ない方には任せられません」

と、私は言いました。

会計とは、非常に繊細で、手を抜くことが許されない仕事ですから。

「それなのに毎年選ばれるということは…奏さんなら、難しいお金の管理もしっかりこなしてくれる、と信頼されている証です」

「あ、うん…。そういう解釈をすれば…聞こえは良いんだけど…」

と、奏さんはどぎまぎしながら言いました。

…?違うのでしょうか?

「会計はね、毎年、必ず余る役なんだ。皆やりたくない、一番不人気の役なんだよ」

「そうなのですか?」

「そう。要するに俺達は…クラスで、誰もやりたくない仕事を…押し付けられたんだよ」

と、奏さんは言いました。

成程、その説明で、ようやく事情が呑み込めました。
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