アンドロイド・ニューワールドⅡ
これまでの、私と奏さんへの言動から考えて。

あの湯野さんが、私達に親切なことをしてくれる、なんて有り得ないとは思っていましたが。

やはりそういうことだったのですね。

「何故、毎年奏さんが会計をやらされることになったのですか?」

と、私は尋ねました。

一度ならまだしも、毎年とは。

「それは…。会計の役割は、裏方だから。表には出ずに、空き教室でひたすら、お金を数えるのが仕事なんだけど…」

と、奏さんは言いました。

絵面としては、とても地味な仕事ですね。

華やかな文化祭の舞台と比べると、大変落差が激しいです。

「俺は車椅子だから…。屋台をやるにしても、喫茶店をやるにしても、お客さんのいる中を、機敏に動き回ることらしい出来ないし…」

と、奏さんは言いました。

また、それが理由ですか。

皆さん、奏さんが車椅子だということを理由にし過ぎではありませんか?

奏さんも含めて、ですが。

私が何度も言っているように、車椅子を出来ない理由にするのではなく。

車椅子でも出来る方法というものを、皆さんで考えるべきですね。

しかしこの学園は、博愛の精神を校訓で謳っておきながら、実際のところ、博愛の「は」の字も知らない教師、生徒が揃っています。

誰にも顧みられない校訓など、いっそ削除してしまった方が良いのでは?

と、私は思います。

「それが理由で、毎年会計やらされてる」

「奏さんは、それで満足なのですか?」

「満足…満足ではないけど…でも運動会のときみたいに、ハナから出てくるなって言われるよりは…ずっとマシだから」

と、奏さんは言いました。

そうですね。運動会のときは、補欠の役割しか与えられず、ハナから来るなと言われていましたが。

この度の文化祭では、一応、地味ではありますが役割を与えられ。

参加も許可されているのですから、運動会のときに比べればマシ…。

…だと、奏さんは言いますが。

私は、それでは納得出来ません。

「何故、奏さんだけが損な役回りを、引き受けなければならないのですか?皆さんは、表で喫茶店をやって楽しむのでしょう?」

「そうだけど…でも、お店の方にいても、俺に出来ることはないよ」

と、奏さんは言いました。

「他の皆ほど、自由には動き回れないし…。皆に迷惑をかけるのは、目に見えてる」

「…」

「だったら、例え地味でつまらなくても、会計を任される方が良い。皆の役にも立てるから」

と、奏さんは言いました。

…成程、そうですか。

奏さんのご意思は、理解しました。

その理屈も、理解出来ます。

皆さんの役に立ちたいという、奏さんの意思は尊重すべきでしょう。

その上で、私の取るべき選択は。

「俺は良いんだよ、毎年会計でも…。でも瑠璃華さんは。瑠璃華さんは別の仕事をやって良いはずだ。瑠璃華さんなら出来るんだから…」

「…」

「俺、もう一回湯野さんに頼んでくるよ。会計は俺だけで充分だから、瑠璃華さんだけでも、別の仕事をやらせてあげてくれって」

と、奏さんは言いました。

その自己犠牲の精神は、いつもの奏さんらしいですね。

しかし、私は友人を置き去りにはしません。

死なば諸共です。

「いえ、奏さん。私は大丈夫です」

と、私は言いました。
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