アンドロイド・ニューワールドⅡ
「作業をするに当たって、手を動かし、目を使うのは仕方のないことですから。他に空いている人間の感覚は、聴覚と嗅覚です」

と、私は説明しました。

「聴覚は、先程国歌を流しましたのでクリア。次は嗅覚を満たすことで、作業効率をアップさせましょう」

「な、成程…。…面白いこと考えるなぁ、瑠璃華さんって」

と、奏さんは言いました。

面白いこととは何ですか。

私はふざけているつもりはありません。いつだって、至って真面目です。

「良い香りを教室内に漂わせることによって、集中力が上がると思うのですが」

「うん、それは良い考えだ」

と、奏さんは言いました。

奏さんも賛成してくださいました。

やはり、これは妙案だったようですね。安心しました。

「色々な香りを嗅ぎ比べられるよう、数種のアロマオイルを用意してきました」

「準備が良いね」

「ありがとうございます。では、早速一つ目をセットしますね」

と、私は言いました。

そして、持ってきたアロマオイルをセットしました。

その後、アロマディフューザーのスイッチを入れました。

これで、室内に匂いが立ち昇るはずです。

すると。

アロマディフューザーから、透明な煙のような、湯気のようなものがふわふわと出てきました。

成功ですね。

「お、出てきた…」

「どうでしょう。作業効率は上がりそうですか?」

「うん、これなら上が…ん?」

と、奏さんは期待に満ちた顔のまま、いきなり首を傾げました。

どうかしたのてしょうか。

「どうされましたか、奏さん」

「…瑠璃華さん、これ…何の匂い?」

と、奏さんは不思議そうな顔をして聞きました。

このアロマオイルの、匂いを聞いているのですね。

「何だか嗅いだことのない香り…。いや、俺もアロマオイルには全然詳しくないから、名前を聞いても分からないかもしれないけど…。独特な匂いがする」

と、奏さんは言いました。

そうでしょうか。この香りは、特に独特なものではありません。

ただの、何処にでもある…。

「これはチョコケーキの香りですね」

「…分からないよ、それは…」

と、奏さんはポツリと呟きました。

分かりませんか。そうですか。

「何でチョコケーキ…?」

「お気に召しませんでしたか?」

「お気に…いや、全然嗅いだことのない香り過ぎて、親近感が全く…」

と、奏さんは言いました。

成程、分かりました。

「では、次の香りを試してみましょう」

と、私は提案しました。

こんなときの為に、複数種のアロマオイルを持ってきておいて、正解でしたね。

やはり、備えあれば憂いなし、ということです。

「うん、宜しく」

「畏まりました。…はい、セット完了です」

と、私は言いながら、二つ目のアロマオイルをセットしました。

すると再び、もくもくと湯気が立ち昇りました。

先程とは、別の香りが漂っていますね。

…しかし。
< 188 / 467 >

この作品をシェア

pagetop