アンドロイド・ニューワールドⅡ
「…?」

と、奏さんは眉間に皺を寄せて、無言で首を傾げていました。

大丈夫でしょうか。

頭の調子でも悪いのでしょうか。

「どうかされましたか、奏さん」

「いや、その…。何て言うか…瑠璃華さん」

「はい。何でしょう」

「これは、今度はこれ、何の香り?」

と、奏さんは尋ねました。

このアロマオイルの香りを尋ねているのですね。

それなら簡単です。

「これはチョコアイスの香りです」

「…いや、分かんないでしょ…」

と、奏さんは呆然として呟きました。

分からない?チョコアイスの香りが?

「そもそも、チョコアイスに匂いってあるの…?」

「はい。よく嗅いだらありますよ」

「逆に言うと、よく嗅がなきゃないんだね」

と、奏さんは言いました。

言葉の揚げ足取りですね。

「何でそんなアロマオイルを…。って言うか、そんなのよく売ってたね…?」

「はい。数週間かけて、今日の為にアロマオイルを探し回りましたので」

「そっか…。そんなに頑張ってくれたんだ…。その気持ちは凄く嬉しいんだけど、その数週間を、別の何かに活かして欲しかったよ…」

と、奏さんは言いました。

いえ。親友の為、親友と共に恙無く文化祭の役割りを果たす為には、必要な準備でした。

数週間の時間を、このチョコアロマオイルの為に使ったこと、私は何の後悔もありません。

実に有意義な時間でした。

「他にもあるの?」

「はい。替えましょうか?」

「あ、うん。お願い…」

と、奏さんは頼みました。

私は再び、今度は三つ目のアロマオイルをセットしました。

すると、もくもくと、また別の香りが立ち昇りました。

教室の中が様々な匂いに満たされて、段々と判別が難しくなってきましたね。

「こちらの香りは如何でしょう、奏さん」

「これまた…変な匂いだな…」

と、奏さんは呟きました。

変な匂いとは。

そんなことを聞いたら、きっと久露花局長は泣くでしょう。

「変じゃないもん!」と駄々を捏ねそうです。

「これ、何の匂いなの?」

「こちらはチョコドーナツの香りですね」

「成程ね。全ッ然分からない」

と、奏さんは遠い目で言いました。

遠い目モードに入りましたね。
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