アンドロイド・ニューワールドⅡ
「色々ありましたよ。薔薇の香り、ヒヤシンスの香り、はたまた柑橘系の香り…」
 
「あ、ほら。まともなのあるじゃん」

と、奏さんは聞き捨てならないことを言いました。

まさか。チョコレートの匂いはまともではないと言いたいのですか?

このような発言をしたことが、久露花局長に知られたら。

きっと奏さんは、局長によって研究室に連れ込まれ。

チョコレートの香りが、いかに良い匂いであるかを、数時間かけて教え込まれることになるでしょう。

久露花局長の、チョコレートに懸ける思いを考えれば、そのくらいは当たり前にやりそうです。

餌食になりますね、奏さんは。

ご愁傷様です。

「何でそっちにしなかったの?」

「久露花局長が、チョコレートを前にして、『こんなに良い匂いのする食べ物って、他にあるのかな?チョコレートの匂いには、最高のリラックス効果があると思うんだ。今度論文にしよう』と、真顔で仰っていたことがあったので」

「…」

「局長の意見を参考に、チョコレートのリラックス効果を期待して、チョコ系統のアロマオイルを買い占めました」

「…」

「どうですか、奏さん。リラックスしてきましたか?」

と、私は尋ねました。

きっと、リラックスし過ぎて、眠気が襲ってきたに違いありません。

しかし。

「いや…。特に…リラックスしてないって言うか…」

「はい?」

「そもそも、チョコレートの匂いに、本当にリラックス効果なんてあるの…?」

と、奏さんは聞きました。

何ということでしょう。

奏さんには、このチョコレートアロマ効果が効かないと言うのですか。

私にも効いていませんが。

しかし私に効かないのは、私が『新世界アンドロイド』だからであって。

人間なら、誰でも効いているものと思っていました。

さては、奏さんは。

「…人間ではない…!?」

「…いや、どっちかと言うと、チョコレートの匂いでリラックス効果を得られる、瑠璃華さんのお父さんの方が少数派だと思う」

と、奏さんは言いました。

そう来ましたか。

久露花局長、あなたはもしかして人間ではない…?

「そもそも、俺達真面目にお金数えないといけないからさ。リラックスし過ぎて眠くなったりとかしたら、逆に効率落ちない?」

と、奏さんは言いました。

成程、そういう意見もあります。

「分かりました。ではアロマディフューザーの使用は諦め…。やはり、国歌を流すことにしましょう」

「え、いや…。それはそれで、どうなんだろう…?」

と、奏さんは首を傾げていましたが。

折角、各国の国歌を集めてきましたので。

やはり、聴いてもらうことにしましょう。
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