アンドロイド・ニューワールドⅡ
国歌が流れ始めて、しばらくすると。

隣の教室、つまり喫茶店の会場が、段々と賑わってきました。

どうやら、客足が伸び始めたようですね。

人間の耳にはなかなか聞こえないでしょうが、『新世界アンドロイド』である私の聴覚なら、よく聞こえます。

すると。

「ここが、瑠璃華ちゃんの教室か〜」

「1年Aクラスの喫茶店…はい、ここですね」

と、聞き覚えのある声が聞こえてきました。

久露花局長と、朝比奈副局長の声ですね。

どうやら、二人がやって来たようです。

いらっしゃいませ。

とは言っても、私は隣の空き教室にいるのですが。

「よし、早速座ろう」

「はい、そうですね」

と、局長と副局長は、席についたようです。

そこに。

「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ」

と、接客の湯野さんは、恐らくメニュー表を差し出しながら言いました。

何度も言うように、私は隣の教室にいるので、現場は見えませんが。

『新世界アンドロイド』の優れた聴覚で、声だけはよく聞こえます。

「ありがとうね。さて、何のメニューが…。…おっ!チョコケーキがある!」

と、メニュー表にチョコレートケーキを見つけた久露花局長は、声を大きくして言いました。

反応しましたね。チョコレートケーキに。

「分かってるね〜!良いメニューだ…。あっ!見て翠ちゃん。チョコパフェもある!」

「あ、はい。そうですね…」

「チョコケーキにチョコパフェとは…なんて罪深い、あっ!チョコマフィンまであるじゃないか!」

と、久露花局長は、段々とヒートアップしていきました。

「凄いラインナップだ…!どうしよう、どうしよう翠ちゃん!?」

「な、何をどうするんですか?」

「私は何を頼めば良いんだ…!?こんなにたくさんのチョコレートに囲まれて…。…はっ!飲み物を見てよ、翠ちゃん。ココアにマシュマロつけられるって!なんてサービスだ!学生の喫茶店とは思えない!」

と、局長はとても興奮しているようです。

喫茶店を開くに当たって、調理係担当の生徒が、調子に乗ってたくさんのメニューを、あれもこれもと採用した結果です。

メニュー表には、かなりたくさんのメニューが並んでいるようです。

実際に作ったり、用意をするのは大変でしょうね。

その辺りの手間を、湯野さんは考えているのでしょうか?

会計係の私と奏さんには、関係のないことですが。

「あ、あの。局長、声が大きいです…」

「なんてことだ。まさか瑠璃華ちゃんの視察に来て、こんな素晴らしいチョコレートメニューのラインナップに恵まれるとは。翠ちゃん、チョコパフェ頼んでくれる?私チョコケーキとチョコマフィン頼むから。二人でシェアしよう!」

「は、話を聞いてください。局長…」

と、朝比奈副局長は、悲しげな、そして恥ずかしそうに言いました。

我らが第4局の久露花局長の前に、チョコレートの文字を出して。

冷静な判断を期待する方が、間違いというものです。
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