アンドロイド・ニューワールドⅡ
すると。

「ちょっと!ここに置いてたフルーツ缶、何処にやったの?」

「知るかよ」

「あ!これ早く出してって言ったじゃん。もう冷めてるよ」

「はぁ?それはDテーブルって言ったじゃないか」

「違うよ、Bテーブル!早く出してきて!」

「こんな冷めたコーヒー出せるかよ!もう一回淹れ直せ」

「そんな時間ないって!」

「あれ!?何でこれ、チョコソースかけちゃったの?いちごソースだって言ったじゃん!」

「え、嘘!?確か伝票は…あ、本当だ」

「またやり直し!?もうフライパンいっぱいだよ」

「何このパンケーキ、生焼けじゃん!こんなのお客さんに出せないよ!」

「しょうがないだろ、注文立て込んでるんだから。そのまま出してもバレねぇって」

「そういう問題じゃないでしょ!」

と、何名ものクラスメイトの怒号が、飛び交っていました。

成程、阿鼻叫喚ですね。

それから、生焼けのパンケーキをお客さんに出すのはやめましょう。

冷めきったホットコーヒーも嫌ですね。

キッチンがこの様子では、それは注文が遅れるのも無理ないでしょう。

まるで連携が取れていません。

素人だというのに、メニューばかりを増やしてしまったツケが、今回ってきているようですね。

会計係の私と奏さんには、関係のないことですが…。

しかし、私もまた、1年Aクラスのクラスメイトです。

困っている人がいたら助けましょう、と局長に教えられたこともあります。

「よし。分かりました」

「え?何が?」

と、奏さんは首を傾げました。

彼は隣の教室の様子など、何も聞こえていないですから。

今お店の方で何が起きているのかは、全く分からないのでしょう。

知らないでいるということは、とても幸せなことですが。

しかし、いくら係が違うと言えども。

我々は今、暇を持て余している訳ですから。

手を貸すくらいのことは、してあげても良いでしょう。

「奏さん、お店の方に行きましょう」

「え!?何で?」

「キッチンお助け隊です。困っている人を見かけたら手を差し伸べる。今こそ我が校の校訓にある通り、博愛の精神を発揮するときです」

と、私は言いました。

例え、多くの教師や生徒が、この校訓を忘れていたとしても。

私は、まだ忘れていませんから。 

「お、お助け隊…?って、何するの?」

「単なるお手伝いです。さぁ行きましょう」

と、私は、奏さんの車椅子のハンドルを握りながら言いました。

「え、いや、でも俺が行っても迷惑にしかならな、」

「向こうは、最早猫の手も借りたい状況ですから。きっと彼らは、奏さんの手も借りたいでしょう」

「何で瑠璃華さん、お店の状況が分かるの?」

「それは勿論、私が『新世界アンドロイド』だからです」

と、私は答えました。
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